第二十四週:庭と重ね合わせ(火曜日)
さて。
昨日ご紹介したとおり、星団歴3946年 (西暦1941年)の野蛮惑星 《地球》において『宇宙と云うのは実はたくさんあるんだよ』と云うボルなんとかと呼ばれた理論物理学者のアイディアを受け入れて来る人たちは皆無だったようである。
まあ、この時代のこの惑星と言えば、核分裂反応を用いた武器の開発・製造なんて云う野蛮極まりない事業に各国が血道を上げて取り組んでいたレベルなのだから致し方ないと言えば致し方ないのかも知れないが……、
ただまあ、そう云う皮肉と云うか時代と惑星の背景はさておき、分かる人には分かると云うことはどの時代どの惑星にもあったようで、この彼の論文より遅れること16年後の星団歴3962年 (西暦1957年)、プリなんとか大学のヒューなんとか・エヴェレットと云う大学院生が、明らかに件の物理学者の影響を受けたであろう論文を発表している。
そう。
で、その彼女 (彼?)の論文の核心部分を要約すれば、次のようなものになる。
『論理学と量子力学の矛盾を解消し両立させるためには、“観測の度に”複数の分岐した世界が作り出されていると考えるしかない』
*
「あのう……」と、少し恥ずかしそうにフラウスが言い、
「どうした?」と、不思議そうな顔で男性が訊いた。
彼らはいま、無重力装置の切れたプラネタリウムの上層部分を、男性がどこからともなく出して来た奇妙な道具 (無重力マント?)を用いてフワフワと浮かんでいるところであり、フラウス少年と云えば、地球一般で云うところの 《お姫さまだっこ》状態で彼に運ばれている真っ最中であった。
「この格好は、その……」と、フラウス。
ま、思春期突入直前の11才の少年にしてみれば、色々と恥ずかしい格好ではあるよね。
(続く)




