第二十三週:穴とプラネタリウム(木曜日)
『――つまり、この過程で初期宇宙の指数関数的急膨張、いわゆる 《インフレーション》は引き起こされたワケですが、先ほどご紹介したイン=ビト王の最大絶対極大奥義 《最大剋星龍捲風》もこの高い真空から低い真空への相転移にヒントを得たと言われています。』
*
「僕が?なにを?」と、フラウスは訊き返し、
「気付いていないのか?」と、大柄の男は更に彼に詰め寄った。
「気付く?――いったい何の話ですか?」
「あれを見てみろ――」
*
「どう?少しは落ち着いた?」と、紙コップの水をフェテスに渡しながらエリシャが訊き、
「ごめんね実際、無重力装置は苦手だけど、こんなに酔うとは想ってなかったよ」と、ロビーのベンチに座りながらフェテスは答えた。
「いまもなんか、フワフワって云うかゾクゾクって云うか、チャーー、チャーチャカ――」
「――フェテス?」
*
チャーー、チャーチャカ、チャカチャカ
チャッチャン、
チャカチャカ、チャカチャカチャカチャカ、
チャチャチャンチャ――、
と、やたら気の抜けたコメディドラマのオープニングのような音がして――、
ドッゴォッ!!
と云う轟音とともに、プラネタリウムの三つの扉がすべて同時に吹き飛んで行った。
すると、それに続いて、
ドゥドゥ、ダーダ、ドゥドゥッダ、ダーー
ドゥドゥ、ダーダ、ドゥドゥッダ、ダーー
と、軽快ながらも肚に響く超重低音のベースラインがプラネタリウムの中から聞こえて来て――、
*
「フェテス!」
と、エリシャが突然、少年の肩をつかみ叫んだ。
「起きなさい!!」
すると、そんな彼女の声に反応したナビ=フェテス少年は、“あの人”からのメッセージもそこそこに目を覚ますと、
「な?なに?なにかあった?」
と、エリシャに訊いた。――彼女の糸目はビックリするほど大きく見開いている。
「爆発!」と、エリシャが言い、
「爆発?」と、フェテスは訊き返した。
「扉が吹き飛んだの!」
「扉?あー、それなら僕のアレだから――」
「寝ぼけないで! 本当に吹き飛んだのよ!」
と、彼女の指差す方向に少年が目をやると、そこには確かに、先ほど通った出入口扉が、その身をクの字に曲げロビーの端に転がっている。
「御告げじゃないの?」と、フェテスが訊き、
「逃げないと!」と、彼の手を取りエリシャが答えた。
「あっ!でも、その前にフラウス君どうしよう?!」
(続く)




