第二十三週:穴とプラネタリウム(水曜日)
『――それではここで、少し時間を遡ってみましょう。宇宙の歴史の最初の0秒から約10のマイナス43乗秒の間、この宇宙は極めて高温高圧、一様・等方的に満たされていたのですが、その後の対称性の破れの進展により基本相互作用が生じたとされています。』
と、書いている作者本人にもまったく自信のないことを整った顔立ちのホログラムお姉さんは続けていたのだが、それはさておき。
*
ジ、ジジ、ジ。
と、奇妙な音が聞こえた。
この音は、館内中に響くホログラムお姉さんの声のせいで周囲の人たちにはほとんど気付かれていなかったのだが、何故かフラウスの耳には届いてしまったようであった。
『――と、古来の人々はこの初期宇宙の時代を呼び習わしていたそうですが、この時代から更に約10のマイナス35乗秒後、素粒子関連の相転移が始まります。』
その奇妙な音の方にフラウスが目をやると、そこには大柄の男が一人浮かんでいて、周囲の壁や天井と問題の奇妙な機械を交互に見ては「あーでもない、こーでもない」とひとり呟いている。
その丁度200mlのジュースパックに色んな形のストローやペットボトルキャップや反物質測定器なんかを乱雑に取り付けた手作り感満載の奇妙な機械は、確かに奇天烈で摩訶不思議っぽくはあったが、何故かこう危険を感じさせる雰囲気のものでもなかった。
『なんなんだろう?あの人』
と、フラウス少年はその男を見るともなしに眺めていたわけだが、そんな彼の視線に気付きでもしたのだろうか、今度は逆に、その大柄の男が彼の方を見詰め、近付いて来た。
角張った顎にやたらと大きな耳と鼻、それに我々もよく知る寂しげな青い瞳を持ったその男性は、フラウスの所まで来ると突然、
「これは君がやっているのか?」
と、訊いた。
(続く)




