第二十二週:雨と栗キントン(金曜日)
『――と云った経緯もあり、『時空のある一点から別の離れた一点へと直結するトンネルのような空間領域』の正式名称は、“ワームホール”で統一されることになったわけです。
しかしながら、この決定に関しては銀河の各方面から「ダサい」とか「うちの地方の呼び方と違う」とか「ワームって (笑)」と云った声が多数寄せられたため、《ワームトンネル (〇〇シュタイン・〇〇ゼン・ブリッジ)》とか 《ワームトンネル (虹の橋)》のようにカッコ付きであれば、旧来の呼称その他も併記して使用することが可能となりました。
特に有名な話としては、当時のアガルタ王子ソアが、連合議会の会議場において、「何を言っている?今までも!これからも! 《ビフレスト》は 《ビフレスト》だ!!」と、雷鳴を轟かしながら主張したと云う伝説などがありますが、これ以外にも――』
と、時空構造解説室の音声案内はなかなか興味深い説明をしてくれたのだが――、
「ソアって誰だっけ?」と、フラウスが訊き、
「知らないなあ、実際」と、フェテスが応え、
「私知ってるわよ、変なハンマー持ってる人でしょ?」と、偏った知識でエリシャが答えた。「それで敵を倒して空を飛んだりするの」
*
さて。
彼らが今いる 《皇立自然史博物館》は、帝都南部 《タ=ヒ公園》内に建てられた科学博物館である。
この博物館には、銀河中から集められた動物、植物、鉱物、自然現象などの博物学・自然科学に関わる多数の標本・資料が所蔵・公開されており、一部エリアを除いて来観無料、雨の日の帝都っ子や親子連れにとっては格好の遊び場所になっていたりする。
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「じゃあ、次はどのエリアに行く?」と、エリシャが訊き、
「もうちょっとパッと見わかりやすいのが良いよね、実際」と、フェテスが続けたので、
「じゃあ、隣の棟のあの丸いのに行かない?」と、フラウスは答えた。
「なあに?アレ?」と、エリシャ。
「案内図によるとプラネタリウムらしいよ」
「じゃあ実際、歩くのも疲れたし丁度良いや」
「でも、お金取られるんじゃない?」
「それも今は無料期間らしいよ」
「じゃあ決まりだね、実際」
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さて。
彼らがいま向おうとしている 《アナーク・プラネタリウム》は、《皇立自然史博物館》が管轄する公設プラネタリウムである。
4218年より今の球形に変更され、球の上半分では最新の天体物理学に基づいた銀河クルーズ的映像投影が行われ、球の下半分では、こちらも最新の天体物理学計算に基いたビッグバンの再現映像を見ることが出来る。
まさにヒマな少年少女たちには格好の遊び場なのだが、まさに事件はここで起こった。
(続く)




