第二十一週:紅茶と少女(土曜日)
『“――つまり、我々が何を皆さまに伝えたいのか?と云うと、それは「バクスター・ウェルの物語を覚えている者は幸せである。」と云うことに尽くされるでしょう。それはつまり、私達はその記憶を印されてこの大地に生まれて来たにも関わらず、想い出すことの出来ないサガを持たされているワケですから――。ですから、それ故に我らが救世主ミファラエルの語る次のお話を――”』
「(小声で)ちょっとちょっと、樫山さんよ」
(小声で)――うん?なんですか?
「(小声で)“バクスター・ウェル”って何?」
(小声で)すみません。知らないです――どっかで聞いたような気もするんですけど。
「(小声で)あと、突然“我らが救世主”とかって言い出したけど、いよいよアレかな?」
(小声で)さあ……まあ、でも、なんだろ?お金とか勧誘とかの話は全然出て来ていませんし、もう少し聞いてみましょうよ。
『“――つまり、バクスター・ウェルとは、海と陸の間にある、我々地球人類の心のふるさとなのであります。”』
「(小声で)“地球人類”とか言い出しちゃったけど…………アンタも確か地球出身だったよな?」
(小声で)正確には 《月》って呼ばれてる衛星の方ですけどね。
「(小声で)じゃあやっぱり、その“バクスター”っての知ってんじゃないの?」
(小声で)いや、聞いたことあるようなないような……一体、なんの話なんだろう?
『“――そうして、機械による喧騒が拡大し、バクスター・ウェルがそれを排除しようとしたのも、地球が 《滝つぼ》に落とされたのも、理の当然なのであります。”』
…………へ?
『“――機械が人の心を揺さぶるのかも知れません。バクスター・ウェルは地上からは決して覗けない平行世界なのでしょうか?”』
(続く)




