第二十一週:紅茶と少女(金曜日)
『ええっと……それで、貴男も飲まれます?』
「……それはなんですか?」
『あら?ご存知ありません?「紅茶」と言って…… 《地球》って惑星の名物なんですけど』
「あ、いえ、初めて見ました」
『じゃあ、一緒に飲みましょうよ。これが甘いお菓子にとっても合うんですよ』
「はあ……」
『心配しなくても大丈夫ですよ。毒なんか入れませんから』
「あ、いえ、そう云うワケではなく……」
『まだまだ頑張って頂かなければなりませんしね……あ、もう少しお待ち下さいね。茶葉を蒸らすのが大事なんだそうです』
「はあ……」
『それで?』
「……はい?」
『手強かった?』
「あ、いえ、「頑丈」でしたが、邪魔が入らなければ仕留められていたと想います」
『そうですか……邪魔に入ったのは、やはりタイムパトロールでしょうか?』
「……気付かれているのでしょうか?」
『うーん?……あ、そろそろ良さそうですね。バリさん、お砂糖は?』
「“お砂糖”?」
『ああ、甘くしますか?それともお酒でも入れましょうか?』
「あ、入れても良いなら、酒を」
『えーっと、確か、この辺りに……ああ、そこの茶色の瓶、取って頂けますか?』
「これですか?」
『ええ、そう。「ブランデー」と言って、これも 《地球》と云う惑星の名物なんですけど、紅茶に入れると美味しいそうなんです』
「色々と……お詳しいですな」
『昔の知り合いがその惑星に大層惚れ込んでいましてね、よく聞かされたんです』
「なるほど……」
『はい、どうぞ。お酒は少し多めに入れておきましたから、ゆっくり味わって下さい』
「なるほど……なかなか変わった味ですな」
『まったく羨ましいですよ、私はこんな身体ですから、お酒はまだ無理みたいで』
「……そもそも貴女のお酒では?」
『昔は飲めたんですよ?それも毎晩浴びるほど……でも、この身体になってからは一口もダメで、匂いを嗅ぐだけでも、ねえ』
「……失礼ですが……お歳は?」
『あら、女性に歳を聞いてはダメでしょ?』
「あ、いえ、純粋に疑問で」
『他の人には言いません?』
「あ、はい、秘密は守ります」
『そうですね……。身体はこの通り若いんですけど、実際には六十五に……何年経ったかしら?……十年ほど足した感じですかね』
と、ここまで話すと少女は、その氷種黒曜石の瞳を相手の顔にジッと向けてから、
『本当に、内緒ですよ?』
と言った。
(続く)




