第二週:コーギーとテリア(火曜日)
星団歴4214年から18年までの都合4年と11ヶ月続いた第一次オートマータ戦争は、結果として連合側の勝利に終ったものの、その爪痕は至るところに残され、我々動物種の精神にも様々な影響を与えたようである。
*
「先生のおっしゃることは、確かに、非常に論理的で正しいことのように想われますけれど、それでもどこか、何か大切な部分で間違えている……私にはそう想われます」と、ある夕食会の席でファウスティナは語った。
――と、ある哲学者の講演記録には書かれている。
この夕食会は、さる大きな科学会議の一環として催されたもので、その場には西銀河でも指折りの医師や科学者たちが出席していたのだが、その時その場に居たある老婦人が次のような話をした。
「先の大戦では、私の夫も従軍致しました。
彼は戦場で多くの友人を失くし、自身もその右足を失くしましたが、どうにか 《深探索》まで引き揚げて来ることが出来ました。
ただそれでも、私達の惑星まではまだまだ遠く、彼は身も心も疲れ果てていたそうです。
そうしてある晩、引き揚げの荷物を整理していたところ、その荷物の中に、軍から支給されていた自決用の小型フェイズシフターが一つだけ残っていることに気付いたそうです。
『これも運命か――』と、夫はそんなことを想い、そのフェイズシフターを口に咥えると、奥歯でそれを起動させようとしたそうです。
ですが、その瞬間、その窓の向う、丁度 《妣国神殿》の真横辺りを、一羽の、見たこともない綺麗な朱色の鳥が『ぴいぃっ』と鳴いて行くのが見えたのだそうです。
――そうして、そこで彼は我に返ると、死ぬのを止め、こちらに戻って来ることを決めたそうです。
そうして、またこれも大変不思議なことに、その日その時刻、丁度私も、我が家の窓から、朱色の鳥が宙に鳴いて行くのを見たのです」
(続く)