第二十週:社と甲冑(水曜日)
「そのとき老雄ストーレが着ていたと言われる甲冑をアルキビアテス大公の曾祖父プラソニアス三世が史料を基に復元したものがこちらになります」
と、厚い眼鏡の奥の目を優しく細めながら宝物館の老学芸員は言った。
「これはその当時、辺境へと向う彼の孫トゥキロドスの武運長久を願い我がダイザンギ社へ奉納されたわけですが――」
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さて。
私のような素人には詳しくたどることは難しいが、いま現在我々が見ることの出来る騎士の甲冑については、その原型は700年戦争の時代に完成されたものと想われる。
騎車をしては大太刀を振るい、数百の敵と対峙しては名乗りを上げる。矢尽き刃折れれば敵と組み、戦場に負傷の者居ればそれを担いで敵と戦う。
それでもなお、その場の観客――それはつまり敵味方双方の騎士たちと云う意味だが――の要求に、戦さ場の“華”として応えなければならない。
そう云った騎士たちの戦闘における複雑多様、且つ互いに相反する幾多の条件・要求に一息に応えようとした経験と工夫が、これらの甲冑を繊細優美――いや、もっと正確に『風光明媚』と書こう――なものに仕立て上げたと筆者には想われるのだが、如何だろうか?
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「なに?もっと見てたいの?」
と、ロクショア・シズカが訊き、ロン=カイ少年はこれに首肯して答えた。
彼の目は、朱と銀で装飾されたゴールドチタン製の甲冑に釘付けにされており、さながら夢でも見ているようである。
そんな彼の横顔にシズカは少し微笑むと、窓の外を指差して、
「そしたらさ」
と言った。
「あそこに大きなウブスナグスの木が見えるでしょ?私、お昼買って、先にあそこに行ってるね」
(続く)




