第二十週:社と甲冑(火曜日)
《ダイザンギ社》の宝物館には、どのような歴史の偶然が重なったのかは分らないが、北銀河・西銀河で現存する甲冑で、国宝・重要指定文化財に指定されているもののうち約八割が収められているそうである。
その為、古甲冑の本物、しかも一流品を見ようと想うのならば、一度はこの宝物館を訪れてみなければならない
……と、まあ、腐っても歴史学者の筆者などは想うのだが、実は未だ行ったことがない。
経費では落ちないんだってさ、チェッ。
――閑話休題。
*
さて。
皆さんご存知のとおり、『ナホトセット』で語られる戦闘とは、先ず第一に華やかな甲冑に身を包んだ騎士たちの戦いであり、彼らのその日の装束が周囲の自然と共に語られなければ意味がない。
薄明のナホトセット城下にて、名も知らぬ紅と金色のチョウに目を奪われる勇者ブラディオスの鎧は萌黄色であったと詠われ、彼に返り血を浴びせ掛けた老雄ストーレの鎧は濃紫色であったと知らされる。
『盾そのものを貫かれ、
傷付き倒れる若人の、
その血に塗れた胸壁に、
別れを告げるアオロアの、
赤支子の色射して――』
すると、それを呼び戻そうとでもするかのように老雄ストーレは敵の防壁に踊り込むと、天にも届かんばかりの大音声で、
『奮起せよ! 天を往かんとする者どもよ!』
と、流れ落ちる自身の血にすら気付かぬ様子で味方の兵士に呼び掛ける。
『ゴラスの壁を打ち破り! 炎たる猛火を奴らの陣に!』
そうして、この声を耳にしたナホトセットの将兵たちは、再び一丸となって突進し、ゴラスの兵を彼らの陣まで追い返すのだが、
『かくてアオロア消え失せて、
辺りを覆う暗闇に、
赤き瞳の老雄も往く』
……と、なるわけである。
(続く)




