第十九週:大魚と星の海(金曜日)
「なに?なにかあった?」
と、窓側の席を譲りながらシズカが訊いた。
すると、訊かれたロン少年は、おずおずと窓側の席へ座りつつ、小さく首を横に数回振り、少しでも笑顔にしようと勤めた。
が、そんな彼の様子に気付くところがあったのだろうシズカが、
「ひょっとして、気付いちゃった?」
と、今度は通路側の席に座りながら訊いた。
『?』
と、不思議そうに少年は首を傾け、
「この航宙機の中には私たち以外にもいるのよ、三人、騎士が」
と、シズカが答える。
『?!』
「宙港に来る前に宮殿から旅客名簿が送られて来てね――まあ『問題を起こすな』って意味なんだけど、一応、この航宙機の一階二階のそれぞれ端の席に座るようにされてるわ」
ここまで聞いて少年は『なるほど』と云う顔をすると、改めて先ほどの男の場所を確認しようと首を伸ばし掛けたのだが、
「やめておいた方が良いわよ」
と、すぐにシズカにたしなめられた。
「なにが原因で争いが起こるか分かったもんじゃないし、相手が何もして来ない間は、こっちもこっちで『何も知らない』って顔をしておくのが……まあ、礼儀ってもんよ」
そう言われて少年は、納得した顔を作ると首を縦に振った。
が、それでも、やはり、先ほどの男の臭いが気になって仕方がない。
「確かに、よっぽど強いか消すのが苦手なのかは知らないけど、殺気が消え切ってないもんね、あの人――ま、君もだけどさ」
彼女はそう言って微笑むと、少し震えるロンの手を優しくつかんでから、
「大丈夫よ、私がいるもん」
と、言った。
「君は、旅を楽しみなさい」
すると、彼女がそう言うのを待っていたかのように機内の照明が落とされ、続いて柔らかな出発のアナウンスが機内に流れた。
「惑星の重力圏を離れたら10分もしない内に亜空間航行に入るからさ、“星々の海”ってヤツを見たいんなら、顔は外に向けておいた方が良いよ」
*
さて。
帝都のある惑星 《カ=ショウ》から 《サ・ジュジ騎士学校》のある惑星 《ウー=シュウ》までは亜空間航法を使用する高速航宙機を使えば一日半程度。
但し、惑星 《ショ=ヨウ》でのトランジットが半日ほど入るので、実際には二日強。
そこから 《ウー=シュウ》の星際宙港からエアバスを乗り継いで 《サ・ジュジ》に向うためには、更に一日ほどの日数が必要となる。
※筆者注:もちろん、一日の長さはその星の自転周期により決まるため、以上は銀河標準時に換算したものである。以降も同様。
*
「まあ、だから、他の騎士さん達とも、どうせ途中で別れることになるわよ」
(続く)




