第十八週:天使と良き兆し(月曜日)
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「――この薄情な司祭めが、お前は地獄でのたうちまわれ!私の妹は天使になるのだ!」
と、激情を抑え切れぬままに男は叫んだ。
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星団歴――と云うか、今回も西暦の方が分かり易いから……えーっと、西暦1601年……は劇が初演された年で、その原型は1230年頃の散文物語だから、それより1~200年ほど遡った1000年代の…………うーん。
ええい面倒くさい! 中世ヨーロッパのいつか! スカンジナビアとかその辺!!
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「――やはり待て!」
と、今度は墓掘り人たちに口角泡飛ばしながら男は言うと、
「もう一度妹を抱き締めさせてくれ!!」
と、墓穴の中へと飛び込んで行った。
「さあ、生者も死者も諸共に土を被せるが良い! この平地が山となるまで!! ピーリオンの山よりも高く!! 天に聳える青きオリンポスの頂よりも高くなるまで!!!」
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ブブブ。
グオン。
シュン。
「ただいま戻りました――」と、疲れた顔で博士が言い、
「ヤア、遅カッタナ」と、ウンザリ顔でMr.Bが返した。「コッチハまだまだ続キソウダゾ」
「まだ?もう十分時間は過ぎたでしょ?」
「ナンカ愚ニモ付カン事ヲ延々ト喋ッテル」
「さっきはお骨と喋ってましたよね?あれ見たから少し遅めに戻って来たんですけど」
「僕ダッテ、らいりーガ「びでおニ撮ッテ!」ッテ言ッテナキャ、ソッチ行ッテタヨ」
「――ライリーさんは?」
「棺ノふた開ケラレテ、アノいけめん兄貴ニ抱キ締メ――ア、別ノいけめんガ戻ッテ来タ」
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「一体どうしたと云うのだ? その仰々しい歎きようは!」
と、墓地の暗がりから三十才前後の新たなイケメンが登場し、口角泡飛ばしつつ続けた。
「その深い悲しみの叫びは何だ? 天駆ける惑星も驚き呆れ立ち止まるぞ!」
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「それでビデオは?」と、博士が訊き、
「チャント撮ッテルヨ」と、手にしたハンディカメラを見せながらMr.Bが答えた。「ソレデ、肝心ノ御本人様ハ?」
「やっぱり心的外傷が結構大きいらしくて、本部の医療棟でしばらく入院加療ですって」
「マ、アノまま溺レ死ヌヨリハましダケドナ」
「覚えてます?ライリーさんが「身代わりやります!」って言った時の顔?」
「コンナ悲劇ノどこが楽シインダカ――」
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「私は――を愛していた!実の兄が四万人集ろうと負けはせぬ!」
と、問題の王子が言い、
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「ジャア、モット上手クヤレヨ」
と、Mr.Bがツッコミを入れた。
(続く)




