第十七週:コクン頭と酔っ払い(水曜日)
さて。
以前にも書いた通り、《騎士の血》は 《優性戦争》時代の名残りであり、その 《血》を受け継ぐかどうか発現するかどうかは、この時代の遺伝学者はもちろん、騎士を統制する国家も、当の騎士本人たちにも分からない。ある日突然「出て来る」のである。
そうして 《血》が出れば、身体は通常のヒューマノイドの何倍も頑健強固となり、身体能力も飛躍的に伸長する。
が、それが記憶や心や魂と云ったものまで生長させてくれるわけではない。
いや逆に、急激な身体変化に心が追い付かず身を滅ぼす者や、身体だけが変化し心や魂は子供のまま……と云う例も少なくはない。
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「最初に技名を叫んだのはワザとですね」
と、ロクショア・シズカの師匠ウォン・フェイは言った。
「その前の“殺して上げる”等の言葉も――言葉はもう少し選びなさい」
と、師からの突然の叱責にシズカは、
「あ、はい」
と居住まいを正すと、
「以後、気を付けます」
と、彼と離れた頃の自分に――まだ十一才だった頃の自分に戻って言った。
「よろしい」
そう言ってフェイは微笑むと、
「そう。それで――“殺して上げる”等の言葉も彼を自分に向わせるための方便でしょうが、如何せん“優しさ”を隠し切れていない」と続けた。
「そこは貴女の美点でもありますが、やはり弱点ともなります」
「それは、陛下にも同じようなことを――」
「ほう……それであの方は何と?」
「いえ、ただそれだけで」
「ふむ……まあ、戦場ではそれが吉と出るか凶と出るかは分かりませんからな……しかし、ま、今回は相手が良かった」
「……良かった?」
「下手に考えたりせず、貴女の言葉を真っ直ぐに受けて向って来ています…………おかげで救けることが出来たのでしょう?」
(続く)




