第十七週:コクン頭と酔っ払い(火曜日)
「陛下から話は来ています」
と、顔をあらぬ方向に向けたままコクン頭の男性は言った。
「《剋星龍捲風》で陛下の首を落としたとか」
「いや!あれは!」
と、客の女性――ロクショア・シズカは否定しようとしたが、直ぐに自分がしでかしたことの重大さを想い出すと、
「……銅像です」と、小声になって言った。
「いやいやいや」そう男性は笑うと「古い連中はみな喜んでいますよ」と言って、足元に置いてあった細身の杖を手に取った。「“やっとアイツの首が落ちた”とね」
それから彼は、
フッ。と立ち上がると、そのポリキス・オリーブの枝で特別に作られたと云う細身の杖を、
ヒョッ。と、彼女の頸筋目掛けて振ってみせた。
と同時にシズカは、持っていた来客用の湯呑みをテーブルに置き、
と同時に、師匠より半クラディオンほど距離を取ろうとした。――が、
と同時に彼女は、気付くと何故か、彼の左腕の中に居た。
『やはり――』と彼女が想うと同時に、
「これがやりたかったのでしょう?」と、目の見えぬ顔で男性が言った。「まだまだ工夫が足らないようですね」
*
『“最小剋星龍捲風!!”』
と、何十世代も前の旧い小型音響装置から聞こえて来たのは、“あの日”のシズカの声であった。
「報道管制を敷かれていたので動画はないそうですが」と、自分の分の黄茶を淹れながら男性は言う。「偶々、貴女と一緒に居られた方が録音装置を切り忘れていたそうで、陛下が送って来られたのです」
「……これで分かりますか?」
「私にはあまり関係ありませんよ」
「あ、そう云う意味ではなくて」と、シズカ。「その……私がやろうとしたこと」
「一度弟子にした者は死んでも弟子です。―優しい所は少しも変わられていませんね」
(続く)




