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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

暑苦しい男

作者: カムロ

 頭がくらくらして、どうもまっすぐ歩けない。

 せめて何かにぶつからないようにと、瞼を開けると汗が目に入ってきた。

 寒いからと着込んでいた厚着も汗を吸って体に重くのしかかり、歩みは止まった。


 暑い。 苦しい。


 額を拭おうとした手を見ると指がふやけていた。

 再び歩こうとして膝の力が抜けて崩れそうになったが、道路の脇の壁を支えにしてなんとか耐える。

 そして、仕事を休むために携帯を取り出した。

 ふやけた手に更に汗をにじませ、不審者と思われるくらい揺れる体で電話をかけ、会社に休む旨を伝えた。


 家に帰ろうと片手で頭を抱えながらふらふらと歩く。


 帰りの途中、広場で何かを浮かべて遊ぶ人影や近所で子供と老人が楽しく会話している。

 端のベンチではカップルがなにやらイチャイチャしている。

 芝生では学生達が叫びながら戯れている。


 元旦だからだろうか。


 周りが浮ついている中、自分だけが沈んでいるように思えてきた。


 暑い。 苦しい。


 お前がここにいるのはひどく場違いだと言われているようにすら感じる。


 なんとかボロマンションにある自室に帰り、ため息をつきながら服を投げ捨てて床に寝転ぶ。

 惰性でテレビを流し、惰性で酒を用意して、クーラーをつけて一服する。


 味がしない。


 テレビから流れてくるのは、いつもとは違う正月特番、皆が笑っている。

 聴こえてくる。 右の部屋から。 左の部屋から。 上から。 下から。 笑い声が、聴こえてくる。



 自分だけが、笑っていない。



 動悸が苦しい。 クーラーをつけているのにさっきよりもずっと暑い。

 それを打ち払うように、思わず変えたチャンネルの先には


『家族みんなで、美味しいカニ鍋!銀山温泉!美しい景色を見ることができます!』


 作業員。 ナレーター。 家族。皆が笑っている家族旅行のCMが流れていた。


 無意識の内に足で空き缶を蹴飛ばしながら、リモコンを握りつぶす様にしてボタンを押して番組を変え、最後に紅白歌合戦が流れた所で、入力切換のボタンを押した。


(そうだ、映画でも見よう)


 目についたゾンビ映画のDVDを差し込み、再生した。

 小難しい話を飛ばし、車がゾンビの群れを蹴散らすシーンを見ながら酒をすする。

 もう、苦しくも暑くもなかった。

 さっきまででは考えられない程にタバコが旨かった。




 ふと気付くと寝ていた様で、映画のエンドロールが流れていた。


 あぁと、呻き声をあげながら、とりあえずとスマホを開く。


 まだ、元旦だった。


 もう何杯目かも分からないが、残っていた酒を呷る。


 どうやらタバコを消し忘れていた様で、視界が赤いが、もう気にならなかった。

 暑苦しいし、体は逃げろと言っているけれど。



 もうこれで、だれも笑わないと思ったから。

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