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67.おやすみ。

 ナガレの車はニマール国との国境へ向かって走る。運転席の窓をあけたナガレはタバコの煙を外に吐き出した。助手席ではジャンベが、こくりこくりと眠りにつきかけては、慌てて首を振って意識を保とうとする。その様子を横目にナガレは思わず吹き出し、「寝てていいんだぞ、大変な夜だったんだから」と優しく声をかけた。

 後部座席では、ネガがメガネを鳥の巣頭にのせて口を開けて寝ている。反対に、ユウヒはすっきりとした表情だ。よく寝た、といった具合である。窓の外を眺めるライムと、腕組みをして物憂げな表情をしているトラヒコは、まだ目が冴えてしまっている様子だ。

 そして最後列には、マティーニとミュールが座っている。名目としては、コルアールを出るまで蠍の謀りの構成員として見届ける、というものである。

「それにしても、あんたにもらった実、役に立ったよ。ありがとね」

ユウヒが後ろを振り返り、マティーニに微笑む。マティーニは面倒くさそうに手を振って返す。

「でも、3個ぐらいでちょうどよかったかな。5個だと、ネガがいなかったら制御できなかったし・・・」

ユウヒの言葉に、マティーニが怪訝そうな顔になり、それがはっとした表情に変わる。

「まさか、お前・・・。5個いっぺんに食ったんじゃないだろうな?」

「食べたけど。だって、あんたが5個くれたんじゃん」

口をあんぐりと開けて、呆れてものも言えないといった顔のマティーニ。何か言いかけて、肩をすくめると言葉を飲み込んだ。

「やっぱり、おかしいと思ったんだ。いくらお前の素の魔力量が多くても、『火吹きの実』を食ったくらいでああはならないだろうと。まあ、結果的にあれが突破口にはなったがな。いや、お前というよりも、どちらかと言えばネガの功績か・・・」

トラヒコがぶつぶつと嫌味を言うと、ユウヒがそれに噛みつく。ライムはいつものやり取りに笑みをこぼし、後ろを振り返った。

「お2人とも、ありがとうございました。本当に助かりました」

頭を下げるライムを、しばしマティーニは見つめていたが、迷った挙句口を開く。

「ああ・・・お前らさ、というか、この女はもう遠慮がないけどよ・・・。特にお前、もうそんな改まった態度じゃなくていいんじゃねえか?もう、なんていうか・・・知らない仲じゃないだろ?タメ口にしようぜ」

照れたように、ライムからは視線を外して、マティーニが言う。ライムは少し驚いたが、すぐににっこりと笑った。

「そう・・・だね。マティーニ。それに、ミュール。改めて、よろしく」


 ナガレは、最後列の窓もあけてやった。マティーニとミュールは入ってくる風に少し驚いた顔をしたが、運転席に向かってマティーニが軽く手を挙げて感謝を示し、ミュールは小さく頭を下げた。そして、2人ともタバコに火をつける。

「距離が縮まったついでに、聞いてもいいかな。2人は、どうして僕たちを助けてくれたの?」

ライムの問いに、マティーニがタバコの煙を吐き出しながら少し考えて、返す。

「C級同期のよしみ、っていうのは嘘じゃねえよ。だからさっさとこの場を離れろと思ったが、あの展開だと一応は俺たちもお前らを捕獲する意思をギルドに見せなきゃならない。でもな、本音を言うと、試験じゃなくて実践でやり合えるのは単純に面白そうだとは思った。俺らのところのA級が出張ってくるのは予想外だったがな」

ユウヒはしげしげと、マティーニとミュールをみつめる。

「あんたたち、試験の時も思ったけど、根はいい奴よね。なんで、マフィアがやってるようなギルドに入っちゃったの?」

ユウヒが尋ねると、マティーニとミュールが顔を見合わせた。

「コルアールの冒険者ギルドなんて、どこも大なり小なりマフィアが後ろについてるぜ。まあ、蠍の謀りは国内でも随一の勢力だけどな。それに、お前らも見ただろ?俺らの生まれ育った闇通りは蠍の謀りの縄張り内だ。周りの人間もマフィアの構成員になる奴が多かった。俺らはガキの頃から、さっさと闇通りを抜け出して冒険者になりたかった。だけど、あの街で、この国で、冒険者になるっていうのはマフィアに入ることと同義だ」

ユウヒは、「ふうん」と呟き、質問を続ける。

「じゃあさ、なんで冒険者になりたかったのよ。冒険者になるのがマフィアに入ることと同じだとしても、マフィアじゃなくて、冒険者になりたかったのって、なんで?」

また、マティーニとミュールが顔を見合わせた。そして。

「知らねえよ」

マティーニはあいた窓の外へ視線を逸らし、ミュールはそれを見て、くすっと笑った。


 ニマール国との国境、関所が見えてきた。ネガが、大あくびをしてメガネを戻した。

 関所では、相変わらず花柄シャツの男が愛想よく手を振っていた。ジャンベが目を擦りながら車をおりると、ナガレがそばに来て、「まだ油断するなよ。あいつらと一緒にいろ」とライムたちの方へ背中を押した。

「皆さん、ボクのせいで、すみませんでした」

ライムたちの輪に、遠慮がちに加わるジャンベ。

「なに謝ってるの。うちらは全然気にしてないし、ジャンベのせいなわけないじゃん」

ユウヒがジャンベの目線に合わせてしゃがもうとして、もうあまり膝を曲げずに済むことを改めて感じる。

「もう、背もこんなに伸びたんだから。シャキッとしな!」

ユウヒの言葉に、ジャンベは照れたように笑う。

「そうだよ。ジャンベのせいじゃない。ジャンベの持っている特別な能力がきっと凄いものだから、もしかしたらこれからもそれを狙う人たちが現れるかもしれない。でも僕たちは、そんな人たちにジャンベのことを絶対に渡さない」

ライムの真剣な表情。ユウヒも、ネガも、隣で大きく頷いた。トラヒコも黙ってジャンベをみつめ、わずかに笑みを見せた。

 出国手続きを済ませ、車に乗り込もうとするライムたちを、マティーニとミュールが並んで見守る。ユウヒがミュールに近寄り、こっそりと囁いた。

「さっきの、あれ。あんたたち、なんで冒険者になりたかったの?」

「おい、聞こえてるぞ」

マティーニが、追い払うように手を振る。ユウヒは「あんたに聞いてるんじゃないもん」と返し、ミュールは困ったようにマティーニの方をみた。そして。

「マティーニが、誘ってくれたから」

がくっと、ユウヒがずっこける。

「じゃあ、結局あんたに聞かないとじゃん」

「なんでお前は、そんなに俺らのことを知りたがるんだよ」

マティーニが、早く車に乗れと言うように、ナガレの車を指さした。

「だって、気になったんだもん。まあね、知られたくない過去だってあるだろうから、これ以上は聞かないけど。でも、あんたが、マフィアじゃなくて冒険者になりたかったって言う時、めっちゃそこ強調するなって思って。だから、何かあるのかなって思っただけ。じゃあね」

ユウヒはそう言うと、「しつこくしてごめんね!」と笑って、2人に背を向けて歩き出した。

 「カッコよかったからだよ!!」

思いがけない声量で背中越しにそう言われて、半分車に乗り込みながら、ユウヒは振り返る。

「悪いかよ、憧れて」

そっぽを向いたマティーニと、くすくすと笑うミュール。ユウヒは少しの間ぽかんとした表情であったが、やがて満面の笑みになった。

「ううん。うちらを助けてくれたあんたらもカッコよかったよ、またね!」

ユウヒが車に乗り込み、ナガレがアクセルを踏み込んで車がニマール国へ走りだしても、マティーニはまだそっぽを向いたままであった。その隣で、ミュールが小さく手を振るのが見えた。


 ナガレの車が走り去った頃、間隔を空けてついてきていた黒塗りの車が1台停まり、マティーニとミュールが乗り込んだ。そしてその車も去った頃。

 関所の2階から、スキンヘッドの屈強な男と、口元を覆い隠した細身の男が現れた。2人がニマール国へと出国するのを、花柄シャツの男は見ようともせず、鼻歌交じりで今しがた渡された金を数えていた。



 ライオンタウン。ナガレはライムたちをギルドの寮へ送り届けた後、竜の筆に向かった。もう夕食時を過ぎて閑散としている広間を抜け、階段を上り、ギルドの研究室に向かう。研究室の方も、明かりの点いている部屋は1つを除いてない。ナガレは唯一、明かりの漏れている部屋をノックした。

「モッチちゃん、流石だよ。研究機関経由で国軍への情報提供。ハッコ女史なら、そりゃ国軍の上層部へ顔が効いて当然だしね。実際に軍が出動しなくても、いい脅しにはなった」

ドアを開けたモッチが、ナガレを見上げて、無言で頷いた。

「冒険譚の方は間に合わなかったよ。もう先客に持ち出されていた。おそらく、俺たちがコルアールへ現れることも知っていたみたいだ。ジャンベを連れて、ね」

これにも、モッチは頷く。

「心当たりは?」

「あるよ。ザンデラ、だろう」


 地下の酒場。

 葉巻を吸うザンデラ。

「これで、コルアールには協力する姿勢を見せてやった。俺らは情報を与えてやったが、奴らの実力不足で取り逃がしただけだ。マクルとコルアールはエピローグを迎えて欲しくない。完結させたい奴らへの手頃な牽制になる。梟の連中とは、最後まで付き合わなきゃならねえが、それでも俺のやり方でエピローグを迎えることが重要だ」

テーブルを挟んで向こう側、静かにグラスを傾ける、スドウル。

「私は、読者の1人として、どのような完結を迎えるのかを楽しみにしておりますので」

グラスの酒を飲み干すと、スドウルは立ち上がり、深々とザンデラへ一礼して部屋を出て行った。

 ザンデラが1人になると、床に大きな影が広がってゆく。そこから、影の腕が1本生えてきた。ザンデラの前で、握った手のひらを開く。そこには、影よりもさらに深く全てを塗りつぶしてしまうような、漆黒の石。

 ザンデラはその石をじっと見つめ、「おやすみ」と呟いた。影の腕が地に戻り、広がった影が消え去った頃、ザンデラはソファへ倒れ込むようにして寝転がった。既に、眠りに落ちているようだった。

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