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65.眠らない街、眠れない街④

 煌びやかな街並みを抜けるたび、次の街はさらに絢爛豪華になってゆく。コルアール国の中心地は、天を衝くような高層ビルや、城のようなホテル、透明の建物の屋上にはプールがあって、水着姿の女性がプールサイドで踊っている。街中から音楽が鳴り響き、「眠らない街」の名に相応しい光景であった。

「眠らない、というよりも、眠れない、だな」

トラヒコが皮肉を言うと、マティーニも「同感だ」と思いがけず優し気な声色になる。しかし、すぐに冷淡な声で蠍の謀りの構成員に指示を出すと、車は突然進路を変えた。それと同時に、まるでいきなり夜がやって来たかのように、真っ暗な世界が広がった。両脇には、鋭い視線、虚ろな視線、血走った視線、そして生気のない目。

「ここが、俺らの生まれ育った場所さ」

マティーニが吐き捨て、ミュールはいつも以上に感情を失くしたような表情だった。


 闇通り、と呼ばれるスラム街をゆっくりと車が進む。やがて、なんの前触れもなく停まり、ライムたちは車から引きずり出された。

 廃屋に囲まれた、真四角の広場を、月明りが照らしている。

「あとから治安維持部隊が追ってくる。本隊が動くとやっかいだ。その前にギルドへ引き渡す」

マティーニはそう言うと、ミュールに目くばせする。ミュールが頷き、歩き出し、突然振り返る。後に続いていた構成員たちが、一斉に恍惚の表情となる。ライムたちも、ミュールがいつも以上に色気を纏っているように感じた。

「こいつら、情けないことにミュールに対してゾッコンなんだ。今回俺らについてきたのも、ミュールに気に入られたいからなんだぜ。バカな奴らだが、こういう時に役立つ」

ミュールが、惚れ薬の瓶を振ってみせる。

「お前らには、C級同期のよしみでチャンスをやる。俺らとやり合え。邪魔な雑魚はこれで排除した、言い訳無しだ。俺らに勝つか、隙をついて逃げられたら、素直に俺らはマスターへ報告する。俺らの力不足でしたってな。その代わり、俺らに取り押さえられたら、おとなしく人質になるんだな」

マティーニが拳銃を、ミュールが鞭を具現化する。ミュールが軽く鞭を振ると、パチンと音がして、恍惚の表情を浮かべた構成員たちがそのままの表情で、広場から弾き出された。

「ここでは武器を具現化しても、なんのお咎めもないぜ。こんなところには映像魔具すら入って来やしない。『存在しない場所』にされているからな」

マティーニが木の実で作られた弾丸をいくつも具現化させ、選んでは装填してゆく。

「そうか。それは助かる」

トラヒコが、刀を具現化する。それを見て、ユウヒが溜息をついて杖を出し、ネガも腕輪を嵌めた。

「ありがとうございます、チャンスをくれて。全力でそのチャンスを活かさせてもらいます」

ライムが、丹田に波動を集中させ、呼吸と共に籠手を具現化させた。マティーニがそれに気がつき、「なんだよ、新しい武器か?」と不敵な笑みを向ける。

「はい。思い切り、いきますよ」

ライムの籠手に波動が流れる。

 一瞬の静寂。

 ミュールが鞭をしならせ、ライムたちへ向けて振り出すと、衝撃波を放つ。トラヒコが抜刀しざまに風を纏った刃で斬り裂くと、両脇の廃屋の窓が勢いよく割れる。

 マティーニが、赤い弾丸を撃つと、捻じれるように展開していき、花が開くようにして炎の渦が迫りくる。ユウヒが杖を構えると、渦の中心に炎の玉を連発し、花が散って辺りに火の粉が舞う。

 ネガがライムの肩に触れ増強魔法を施し、続いてトラヒコの脚に移る。トラヒコが瞬く間にミュールへ間合いを詰めると、刀を振り下ろし風の斬撃を至近距離でぶつける。ミュールは鞭の途中を持ち短く扱うと、空間を瞬間的に何度も打ち、無数の小さな衝撃波を放って応戦する。

 ライムが腰を落とし、正拳突きを連続で打ち込むと、拳の形をした波動が放たれ、マティーニとミュールを同時に攻撃する。マティーニがそれを躱しながら、弾を3発別の方向へ撃ち出すと、ライムの目の前に氷の壁がそびえ立ち、同時に地面がドロドロとした液体で沼のようになり、さらに壁に張り付いた弾から光線が定期的に放たれるようになった。それぞれの木の実の特性を活かした弾丸がライムたちを苦しめ、ミュールは鞭の持ち方を変えては様々な大きさと速さの衝撃波を放ち、かと思えば鞭本来の打撃や手足を絡めて引き寄せたり、攻撃の妨害を行う。完璧な2人の連携。

 ライムが、沼状の地面から跳びあがり、地面に拳がつく瞬間に波動を放出する。

「勁弾!」

ドロドロの液体が地面から剥がれるようにして飛び散り、その中でトラヒコが風を纏った刀を勢いよく抜刀する。

「疾風」

マティーニが身体を捩じるようにして跳びあがって躱し、ミュールは反対に身を屈めると、地面を擦るようにして鞭を振り出し、ライムたちの足元を狙う。しかし、それを長く続けることは叶わず、ライムが壁を蹴って駆けるように跳びあがると籠手を振るい、ミュールはすぐさま立ち上がると鞭を振りながら凄まじい速さで自身が回転し、竜巻のようになって迎え撃つ。ライムは瞬きもせずに回転の芯に向けて拳を突き入れると、ミュールが鞭の柄で受け止めて、吹き飛ばされた。しかし、軽やかに後方へ宙返りしながら着地する。

 ユウヒが、「はい、出来たよ!火花 向日葵!」と叫び、上空から巨大な炎の塊を落とす。まるで夜なのに太陽が昇ったようだ。ミュールが衝撃波で迎え撃とうと鞭を振ろうとした瞬間、「悪く思わないで欲しいっす」とネガがミュールの肩に触れる。一瞬だけ、ミュールは腕に力が入らなくなり、鞭を振ることが出来ない。ネガの減退魔法である。ネガは全速力でその場を離れ、炎の直撃を浴びないようにする。

 「面白いじゃねえか、あの時よりちょっとは強くなったかよ?」」

マティーニの背後に大量の青い弾丸が浮かび、マティーニは落ちてくる炎の塊に向かって引き金を引いた。大量の青い弾丸の1つ1つが水を纏っているようで、炎の塊は地面に落ちる前に鎮火された。さらに。

「おい、撃ってこいよ」

マティーニは銃口をユウヒに向けている。その銃口は、深緑色に輝き、草木のエネルギーが蓄積していくようだ。

「今度は負けないんだから!」

ユウヒも杖を構えると、炎の魔力を込めてゆく。2人同時に、互いの攻撃を放ち、放射された炎と撃ち出された深緑色の光線がぶつかり合った。


 突然。


 上空から、何か巨大なものが降ってきたようだった。それの正体が分かるまで、しばしかかった。何かが落ちてきた衝撃で、辺りに粉塵が巻き上がったからだ。

 その何かは、ユウヒの炎と、マティーニの光線との間に落下し、それら2つを同時に受け止め、消し飛ばした。

 その何かは、ゆっくりと両腕をおろす。巨漢だ。リキよりもさらに巨漢。肥満体のようでいて、実際は筋肉の鎧で覆われている。肌は灰色で岩のようだ。右手の中指には、巨大な指輪を嵌めている。

「カイラブン・・・!」

マティーニが息を呑む。

「時間切れ、治安維持部隊、くる。こいつら、捕まえて、戦わせる。ウボンレイ族、取られたくない、こいつらも同じだから、使える駒になる」

ライムたちを治安維持部隊にぶつけ、ジャンベを追う治安維持部隊の戦力を削ぎ、それと同時にジャンベが身を差し出さなければライムたちに危険が及ぶような状況をつくる。これが、人質ということか。

「お前ら、ウボンレイ族、追いかけろ」

顔を見合わせたマティーニとミュールであったが、渋々といった具合に駆け出す。ライムとすれ違う時にミュールが「死なないで、あいつはA級」と囁いた。ユウヒとすれ違う時に、マティーニが何かをユウヒの服のポケットへ捻じ込んだ。

「変態っ!」

ユウヒがポケットを押さえると、その正体に気がつき、はっとした顔になる。

「おい、本気で・・・逃げるぞ。こいつはやばい」

トラヒコが全力で迎え撃つような姿勢を取る。ただ逃げるだけでは無事で済まないことはライムにもわかる。しかし戦って敵う相手でないことは、ネガだけでなく全員が理解した。


 岩の巨漢、カイラブンの指輪が光る。全身に岩を纏ったようなその身体をゆっくりとライムたちへ向けると、おもむろに拳を地面に振り下ろした。

 衝撃と、振動。

 広場を囲む廃屋が、倒壊する。それでもまだ振動は止まない。粉塵の中、瓦礫が頭に落ちてもまるで平気な様子で、カイラブンはゆっくりと歩を進めた。

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