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62.眠らない街、眠れない街①

 ナガレが運転する車には、ライム、トラヒコ、ユウヒ、ネガ、ジャンベが真剣な顔をして乗っていた。間もなく、車はコルアール国との国境へ到着する。


 ライムとジャンベがマクル国から、トラヒコ、ユウヒ、ネガがブジンカ国から、それぞれが帰国して以降、一行は暑い夏の日々を祖国で過ごした。本拾いのついでに湖で泳いだり、いくつかの冒険譚を完結させたり、ライオンタウンの夏祭りに参加したり。夏祭りでは、竜の筆はでんえんと協力して屋台を出して、老若男女をもてなした。

 祭りが終わってからも暑さはおさまらず、それどころかますます張り切っているような太陽に辟易としていたある日、ギルドの広間にて5人して寛いでいた一行は、モッチに呼び出された。といっても、モッチの飼育しているメモリーモスが一行の周りを飛び回り、研究室へと追い立てた、という方が正しいかもしれないが。

 モッチに研究室へ招き入れてもらうとまず、空中に映された大陸地図が目に入る。ライムたちが以前揃って訪れた時にもあったものだが、今は地図上の至る箇所が赤く点滅しており、脇の映像魔具にはグラフや数値が刻一刻と変化しつつ表示されている。

 モッチは、5人をみつめると、珍しく自ら口を開いた。

「みんな、色々発見してくれている。ありがとう」

発見は出来ても、なかなか答えに辿り着くことは出来ない。しかし、夏の間の賑やかさで、それを悔しいとも思っていなかったし、答えに辿り着かなければという焦りも控え気味になっていた。

「それで、あれ見て。赤いところ、冒険譚から魔物が大量に出てきたところ。ほとんど、BランクからCランク。それで、あそこ。コルアール国との国境付近、Cランクの冒険譚が数冊出現している。そして、直近の傾向から、魔物が出てくる可能性が高い」

モッチが、大陸地図から再び5人に視線を移す。そして、黙ってじっと見つめる。

「つ、つまり、おいらたちに行って来いってことっすかね・・・?」

ネガが渋々といった具合に切り出すと、ユウヒは「大量って、どれくらいなのかな・・・」と笑顔が引き攣る。トラヒコは腕を組んで大陸地図を眺めていたが、ライムに尋ねた。

「そろそろ、お前の新しい武器も馴染んできた頃だろう。この辺りで全力を試してみてもいいんじゃないか?まあ、全力を出すような事態になるかは分からないが」

ライムは頷いて返す。

「そうだね。僕の武器のことだけじゃなくて、そもそも魔物が大量に出現したら、周囲の人たちは大変だと思うし、冒険者としてここは行くべきだと思う」

ネガとユウヒも、ライムの言葉に覚悟を決めて頷いた。

「ありがとう。じゃあ、君、場所を魔具に送る」

モッチがネガの地図魔具にデータを送信した。


 コルアール国が見えてきた。遠くに大きなドーム状の建物がいくつか見える。国境の関所の雰囲気も、どこか陽気だ。今回は、関所を越えることはなさそうであるが、関所の花柄シャツを着た男がこちらに手を振るのを見て、国の中心地は街全体が遊戯施設になっているという説明を思い出した。

「夜はここからでも、近い街の明かりがギラついて見えるぜ」

車のスピードを緩めながら、ナガレが言う。

 ネガの地図魔具が反応した。と同時に、向こうから母親とみられる女性が、子ども2人の手を引いて駆けてくる。その後ろには。

「いたぞ!」

二足歩行の大型の鳥、ダチョウのような姿をした魔物の群れがやってくる。はじめは母子と相当に距離が離れていたのだろう。それでなければ、既に追いつかれているだろうから。しかし、それでも魔ダチョウの群れが母子を飲み込むのは時間の問題だ。

 刀を具現化したトラヒコが飛び出す前に、ネガがトラヒコの両脚、両肩を強化した。さらに、遅れて駆け出すライムとユウヒの強化も行う。

「さて、おいらの仕事はここまでっすよ」

ジャンベが車から身を乗り出して、「頑張ってください!!」と声援を送った。

「ジャンベ、どっかその辺に掴まっておけよ」

そう言うとナガレは、車を派手に回転させ、母と子らのもとへアクセルを踏み込んだ。そして、「乗りな、早く!」と声を掛けると、ネガがドアを開けた。ライムたち3人が降りた席に、母子が飛び乗る。

「ありがとうございます・・・!」

息も絶え絶えに、女性がそう言うと、ナガレは「もう大丈夫だ。ところで、お母さん・・・ひょっとしてお姉さんかな?チビちゃんたちをしっかり捕まえといてくれよ」と後部座席を振り返ってウインクし、車の後方を滑らせながら猛スピードで発進してその場を離れた。

 刀を抜いたトラヒコが、風の斬撃を飛ばす。ユウヒが杖を構え、「火花 牡丹」で迎え撃つ。ライムが籠手を具現化し、腰を落として構えて大きく息を吐き出すと、波動がライムの全身を包む。そして、正拳突きの要領で拳を勢いよく前に突き出すと、巨大な拳型の波動が前方に放たれる。魔ダチョウたちは、3人の迎撃によって弾け飛ぶが、なにせ数が多い。

「こんなにいっぱい、なんで出て来ちゃったのよ!」

ユウヒが炎魔法を放ちながら文句を言う。トラヒコが、「こんな雑魚どもに、大技はもったいないな」と呟き、魔ダチョウの群れの中に飛び込んでゆく。そして、体捌きで魔ダチョウの突進を躱しながら刀捌きで魔ダチョウたちを斬り捨ててゆく。一方、ライムは群れに飲み込まれたと思いきや、一瞬時が止まったかのように魔ダチョウたちが立ち止まり、次の瞬間には四方八方へ放たれた波動によって弾き飛ばされる。

「うちは、大技使うからね!疲れるけど、一気に終わらせちゃいたいし!」

そう言うと、ユウヒは上空に巨大な炎の塊を展開しはじめた。そして。

「ライム、トラヒコ!どいて!!」

ユウヒの合図に合わせて、ライムとトラヒコが、魔ダチョウの群れから飛び出す。それを見届けたユウヒが、「火花 向日葵」を群れに向かって落とし、魔ダチョウたちを一掃した。


 ライムたち3人が、ナガレの車へと戻ると、母親とみられる女性と親し気に話していたナガレが、「おお、ご苦労さん」と手を挙げた。ナガレは何故か、タバコの代わりに棒つき飴を咥えている。

「こちらの女性が、コルアールへ案内してくれることになった」

ナガレの言葉に、女性もにっこりと笑みを浮かべる。関所の男は相変わらず陽気に迎え入れ、女性と言葉を交わすとあっという間に入国の許可がおりた。

「おい、待てよ。あの群れが出てきた冒険譚も回収していないのに・・・」

トラヒコが言いかけると、花柄シャツの関所の男が無造作に冒険譚を取り出した。

「こいつぁ、コルアールの方に落ちてたんだ。魔物たちはニマールの方へ走って行っちまってたみたいだけどな」

冒険譚がコルアール国に落ちていたと主張された以上、処遇はコルアール国に任せるしかない。モッチも、「国境付近」とは言ったものの、どちらの国側に冒険譚が出現したかまでは名言しなかった。

「あの、その冒険譚が拾われたのは、いつのことですか?」

ライムが花柄シャツの男に尋ねる。

「さあ・・・ほんの数日前ってことは分かってるけどな。本より魔物の群れの方が先に発見されたんだ。発生源を探ってたら、これが」

「皆さま、わたしたち親子の命を救ってくださり、本当にありがとうございました。ニマール国の方へ用事を済ませに行って、帰り道であの魔物たちの大群に遭遇して・・・もうダメかと・・・」

女性が頭を下げ、子どもたちも神妙な顔で俯いている。これ以上、疑問を投げかけるのも野暮に思えてきて、ライムは口をつぐんだ。

「せめてものお礼をさせてくださいませ。わたしたちの家は、コルアールに入ってすぐの街にございますので」

 トラヒコは腕を組み、表情を変えない。しかしユウヒは、女性と親し気にするナガレを見て、複雑そうな表情を浮かべていた。単純な嫉妬ではなく、どこか疑問を投げかけるような。ナガレの横で、ネガは綺麗な女性と会った時に陥るいつもの反応をみせていた。ぼーっとして、口が半開きだ。一方、ジャンベは子どもたちと母親とを交互に見て、首を傾げていた。


 女性の案内で街に向かう。ナガレの車には8人までしか乗ることが出来ず、1人は花柄シャツの男がバイクの後ろに乗せて送ってくれることになった。誰がおりるかは、話し合いをするまでもなく、トラヒコが無言で、花柄シャツの男が乗るバイクの後方に跨った。

 ナガレの言った通り、遠くのドーム状の建物が色鮮やかに光るのが見えた。その光がうっすらと照らす街に辿り着いた時、トラヒコは異変を感じた。ここは、光と陰で言うならば、陰の方の街だ。貧しさが滲み出るような、古く傷ついた建物。道路も汚れているし、何かよくわからない匂いもする。花柄シャツの男は、トラヒコをおろすと、ナガレの車が到着するのを待たずしてバイクを来た道へ向かって発進させた。

 ナガレの車が到着する。ジャンベの座った席だけ、窓が開いている。車から真っ先におりてきたのはユウヒであった。ドアを開けた時には既に文句を言いだす表情になっていた。

「あの女の人、香水きつすぎ。吐きそう」

鼻をつまんでトラヒコの横にやってくるユウヒ。女性と子ども2人、ジャンベがおりてきて、一拍置いてからライムがふらふらとおりてきた。様子がおかしい。後ろに続くネガはさらに、だ。そして、運転席からは額を手の甲で押さえるナガレが。

「おい、車の中で何があった?」

トラヒコがユウヒに囁く。

「何がって、何もないけど。でも、なんかナガレさん、らしくないっていうか・・・。いつものワイルドな色気が全然・・・。あの女の人、そんなにいいかな・・・?」

ユウヒが口を尖らせる。

 その時だった。ネガのズボンのポケットから少しだけ顔を出していた地図魔具を、子どものうちの1人がそっと抜き取った。そして、子ども2人が暗い街の中へ向けて逃げ去ってゆく。

「おい!!」

トラヒコが追いかけようとして、後ろを振り返ると、盗られた張本人のネガはぽかんとした表情だ。ユウヒが「ちょっと、ネガ!?」と肩をゆすると、やっとぼんやりとした表情のまま、「あれ、魔具・・・」と呟いた。

「追いかけ、ないと・・・」

ライムも、ぼんやりとした表情のまま、逃げてゆく子どもたちの背中を見つめる。

「ユウヒ、こいつら引っ張ってこい!」

トラヒコが一目散に駆け出した。


 子どもたちを追い駆け出した4人に続こうとするジャンベの腕を、ナガレが引っ張って止めた。

「ジャンベ、お前はこっちだ」

ナガレが囁く。

「こちらです、どうぞ」

女性はもう、笑みを作ることもなく、ナガレの腕に絡みつくと、子どもたちとは反対方向へと向かいだした。

 女は1軒の古びた飲食店へ入る。店主も客も、女とナガレ、ジャンベの入店に声をかけず、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべている。そして客の中から1人の男がナガレへ馴れ馴れしく肩を組み、「ふんだくれそうなのか?」と女へ尋ねた。

「ニマールの冒険者みたい。この2人は多分、非戦闘員だと思うわ。魔物を蹴散らしたのは、『あっち』へ行った子たちだけ。実力がありそうな冒険者だったわ、ギルドも潤ってるんじゃないかしら。この2人を人質にして『あっち』の子たちも捕まえて、たっぷり脅しのネタを作って送り返してあげましょ。稼げそうな気がするわ」

店内が、下衆な笑い声で包まれる。そして。

「ようし、ジャンベ。思いっきり暴れろ」

ナガレがジャンベを振り返って、ウインクをする。はっとした顔で離れた、馴れ馴れしく肩を組んできた男の顔面に、ナガレは拳を叩き込む。一斉に立ち上がった客人がナガレとジャンベを取り押さえようとする。しかし、ナガレは喧嘩に慣れた様子で男たちを殴る、蹴る、投げ飛ばす。ジャンベはすばしっこく動き、掴まりそうになると相手の腕を捻ったり、跳びあがって頭を踏みつけたりした。野生の獣のような動きだ。男連中を一掃した後、ナガレは棒付き飴を咥えなおし、女に向き合った。

「さて、お姉さん。俺はこういう場面に遭遇するたび、女性を信じてみたくなってしまうんだ。今日だって、お姉さんの企みは最初から分かっていたけど、黙って惚れ薬の混ざった香水を嗅いだんだ。もしかしたら、シングルマザーで、表立って男を誘うなんて出来ないから、せめてこんな形で男を惹きつけているんじゃないかってね。まあ、俺はこういう場面に備えて色々と用意をしているから、目覚ましの棒つき飴を舐めて正気を保ってはいたんだが。こっちの子は、野生の勘でその匂いを嗅いじゃまずいと分かったんだろう、窓を開けていたからね。それで、俺が何故演技までしてここに来たかわかるかい?」

女は、はじめこそ想定外のことに怯えた様子であったが、すぐに気を取り直し、隠していたナイフでナガレを切りつけた。しかし、あっさりとナガレがその腕を掴む。

「ここは、窃盗団のアジトだろう?いいものが眠っているんじゃないか?例えば、未完の冒険譚とか」

はっとした表情になる女。突然、身を潜めていた店主が包丁を手に、ナガレに襲い掛かる。しかし、今度はジャンベが素早く跳躍し、店主の側頭に膝で一撃をくらわせた。

「た、助け・・・」

「それは、お姉さん次第だよ。さ、案内してくれ」

女は力なくナイフを床に捨て、転がった店主を跨いで店の奥へ向かう。厨房の棚に置かれた皿を何やら規則的に並べ替えた女が、こちらを振り向いて「この先、です・・・」と呟いた後、棚が振動して横に動き、隠し部屋が現れた。


 子どもたちを追いかけながら、段々と意識を取り戻してきたライムとネガ。

「あれ、惚れ薬の一種っす!香水にして、つけた者に対し恋愛感情を持つ可能性がある相手を恍惚状態にさせるっす。まんまと嗅いでしまったっすね・・・」

ネガの言葉に、溜息をつくユウヒ。

「あんたねえ。ライムが同じようになってなければ、いつものことかって見過ごされてたからね」

ライムも、頭を振って意識をはっきりとさせながら走る。

「じゃあ、ナガレさんも惚れ薬の影響でおかしかったってこと?」

ユウヒが拗ねたように言うと、ライムがそれを否定した。

「ううん、きっと、ナガレさんもジャンベも、惚れ薬の影響はないと思うよ。今思えば、ジャンベは窓を開けて外の空気を少しでも車内に入れるようにしていた。そうでなければ、ネガも僕も、もっと酷い状態だったかもしれない。それに、ナガレさんは表向き様子がおかしかったけれど、運転は平然としていたよね。罠だと分かっていて、演技していたのかもしれない」

ライムの言葉に、少し嬉しそうな顔をするユウヒ。

「なんだあ。演技か、紛らわしいなあ」

 3人の前をゆくトラヒコが、ついに子どもたちに追いついた。首根っこを掴み、地面へ押さえつける。

「チビども。返してもらうぞ。お前らがそうやって生活しているのは理解したが、相手が悪かったな」

はあ、はあ、と息も絶え絶えに追いついたネガが、「お、おいらの、魔具っす・・・」と手を差し出す。その時だった。

 怒声が響く。一同は大量の、見るからに粗暴そうな輩たちに取り囲まれていた。

「この人数、どうやって集めた?」

トラヒコは、子どもたちに問いかけるというよりも、自問するように呟く。ユウヒとライムが背中合わせに立つ。上空で、何やら機械音がした。

「あれっす!飛行映像魔具!」

ブジンカ国でみかけた、あの魔具だ。

「あれで、おいらたちの行先を追ってたっす!」

じりじりと円を狭めてくる、輩たち。

「武器は使っちゃダメだ。冒険者が一般人を攻撃したらまずい。しかも、ここは他国だからね」

ライムが背中越しにユウヒへ囁く。トラヒコは子どもたちを押さえつけたまま動かない。ネガは、飛行映像魔具と輩たちを交互に見る。

「もしも攻撃したら、あの魔具で都合のいいところだけを世界中に拡散して、おいらたちを悪者にするかもしれないっす」

ネガの言葉に、余計に手を出してはまずいと焦る一行。その時。

 銃声とともに、飛行映像魔具が全て撃ち落とされた。さらに、「目を瞑ってそのまま真っすぐ駆け抜けろ」と声がして、次の銃声と共に辺り一帯が眩しく輝いた。一時的に視界を奪われた輩たちが呻いている間に、トラヒコは子どもたちから魔具を取り返し、ライム、ユウヒ、ネガは目を瞑ってひたすら前方へ駆け出した。

 「目を開けろ、こっちだ」

声のした方へ誘導され、走る4人。

「お前ら、ここじゃ、あんな甘い考えは通用しないぜ」

嘲笑うような声。

「あ、その声!あんた・・・」


 月明りに照らされた路地裏。不敵な笑みを浮かべるマティーニと、空を向いて首を振り髪をなびかせるミュール。

 「これはこれは、ようこそ我が国へ」

皮肉に満ちた声でマティーニが4人を歓迎し、感情の伴わないような表情でミュールが4人を見つめた。

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