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51.鬼の首を取ったなら ②

 大きな一室が、中央の煌びやかな仕切りで2つの部屋に分かれている。ユウヒに配慮して、メイドたちが用意をしたのだろう。ユウヒは一旦、仕切りの向こう側に行ったものの、「寝るまでは、こっちにいるね」と男3人の側にやってきた。

 夕食もこの部屋に運んでもらえるようだ。トウタは、「歓迎のために大広間で晩餐会をとも思ったが、戦況も芳しくない。客人は惜しみなくもてなしたいのだが、食料もそう多くはなくてな・・・」と申し訳なさそうにしていたが、ライムたちにとっては部屋で食事をとりながら話し合いたいことも多く、その方が有難かった。

「オロチ山で戦った鬼は、あの説明からすると、歩兵・・・っすかね。つまり、あれでも鬼の中では最弱ってことっすか」

ネガが、溜息をつく。

「歩兵鬼、羽鬼、馬鬼、つまり雑魚どもは、人間側の兵器で応戦できるともトウタは言っていた。つまり、俺らが意識すべきなのは、剣鬼、魔鬼、辺りからだろう。そもそも、俺らが人間側につくのなら、だがな」

トラヒコが腕組みをして、ベッドに腰掛ける。

「でも、鬼側につくっていうのは、無理そうじゃない?上位の鬼は言葉を喋れるみたいだけど、そこに辿り着くまでが大変そう・・・それに、鬼にとってはうちらだって人間だし、復讐の対象と変わらないよ」

ユウヒの言葉に、ライムはゆっくりと頷きつつ、考えをまとめるように述べる。

「そもそも、人間と鬼との戦争は、何故始まったんだろう。トウタの説明だと、鬼は人間が大切にしている物を奪っていく、本能のようなものがあるのかな。それを人間は取り返そうとする。そうすると、仕掛けたのは鬼の側になるけれど、それを一気に取り戻したのが英雄。でも、今回の鬼の攻撃は、英雄への復讐なんだよね?本能での行動とは違うのかな」

ネガも天井を見上げて考えながら、答える。

「もしかしたら、鬼が『奪っていく』と思っているのは人間だけで、最初に『奪った』のは人間の側かもっす。例えば、鬼が大切にしている物を、人間が知ってか知らずか奪ってしまって、鬼はずっと復讐している、とか・・・」

「あるいは、鬼の本能って説を支持するなら、今回鬼が欲しいのは、誇りとか、勝利とか、もっと抽象的な人間にとっての『良い物』かもしれないぞ。ひょっとしたら、平和、とか。だとすると、それを教えちまったのが、英雄ってことになるけどな」

トラヒコが、皮肉を含んだように鼻で笑う。

「あ、ねえねえ。英雄で思い出したんだけど、あの部屋の肖像画、みんなトウタと同じ、着物姿だったよね。街の人たちの服とは全然違うけど・・・ってか、トウタが英雄の末裔ってことでいいんだよね?さすがにうちでも気がつくくらい、あからさまだったけど」

ユウヒが、3人の顔を順にみる。

「まあ、そこまでは誰もが当たり前に分かっていたことだ。あえて口に出すまでもない」

途端に食って掛かろうとするユウヒを制しながら、トラヒコがライムに顔を向ける。

「で、お前はどう思う?」

 

 ライムはトラヒコを見つめ返す。あまりにも荒唐無稽な想像で、トラヒコに聞かれなければ口に出さなかったかもしれない。

「英雄は、もしかしたら、冒険者・・・それも、ブジンカ国と関係のある人、だったのかも」

ぽかん、とするユウヒとネガ。

「俺も、そう思う。ここ最近、ブジンカ国の剣豪に稽古をつけてもらっていたから、余計にそう考えてしまうのかと思ったが、お前の考えもそうなら安心した」

トラヒコが頷きながら返す。

「ああ、ブジンカ・・・そっか、着物はブジンカ国の服装だもんね。C級冒険者試験の時、サクラたちも着てたし。でも、英雄が冒険者っていうのは、なんで?」

「そもそも、この冒険譚はジャンベが鑑定したっす。だから、おいらたちより先に冒険者が入ることは出来ないはずっすよ。それは、2人とも分かってるはずっすけど・・・」

ユウヒやネガの疑問に、トラヒコは黙って壁を見つめ、ライムは頷くしかなかった。

「その通り、なんだよね。僕たちよりも先に冒険者が入っていた、なんてあり得ない。でも、トウタの存在はなんていうか・・・この世界では浮いている、異質な感じがするんだよね」

トラヒコが、壁を見つめたまま、ライムに続く。

「トウタは英雄が『現れた』と表現した。まあ、この世界のどこかから『現れた』ってことなのかもしれないが。もしも、鑑定の結果を消すことが出来る力、能力なのか魔具なのか知らんが、あったとして、俺の想像はこうだ。ある日、この世界に着物を纏った英雄が現れて、つまり冒険者が入ってきて、冒険譚を完結させるために鬼を倒した。その子孫は代々、トウタに至るまで着物を纏った英雄と同じ姿のまま、崇められている。つまり、この冒険者は冒険譚の中で子孫を残している」

ネガが、恐ろしいものを見たような表情で返す。

「冒険者と登場人物との間に子どもが生まれるなんて、あり得るんすかね」

「それを隠蔽するために、鑑定の結果を白紙にし、まだ誰も手をつけていない冒険譚だと偽装した。そして、この冒険譚は、未完だ。俺たちの考えが見当違いなのかもしれないが、もしも正しければ、その冒険者は既にここで死んでいる。命の上限、4人ともここに入ることが出来たからな。もしくは、子孫を残して未完のまま本を出て、現実世界に戻っているかもしれない。とにかく、完結をさせたくない何かがあったのだろう」

トラヒコの言葉を受けて、ユウヒとネガが顔を見合わせる。

「ちょっと、無理があるんじゃない・・・?なんか、らしくないって言うか。こういう話、言うとしたらうちじゃない?」

ユウヒが笑いを誘おうとするが、トラヒコは黙って目を閉じてしまった。

「僕は、トラヒコ程は考えられていたわけじゃないけど、漠然とそんなふうに思ったんだ。この想像には2つの『あり得ないこと』が起きていなければいけない。まず、1度あらすじまで書かれた冒険譚を、白紙の状態に戻す力が存在すること、そして、冒険者と登場人物との間に子どもが生まれること。でも、それがクリアされれば、あの肖像画の謎も解けるんだ」

また、ユウヒとネガが顔を見合わせる。トラヒコが、口を開いた。

「あの中で1番端の肖像画、おそらく英雄その人だろうが、着ている着物にブジンカ国の紋章が描かれていた。言っただろう、ここのところブジンカ国の剣豪に稽古をつけてもらっていたって。その人の着物にも、あるんだよ、ブジンカ国の紋章が」

 ドアがノックされ、4人はぴたっと会話を止める。メイドが食事を運んできてくれたようだ。


 翌朝、トウタは4人を連れ、街の四方にそびえ立つ見張り台へ案内した。見張り台へよじ登ると、遠くに煙の燻る村が見える。昨日、鬼の群れに襲われたという。調査へ向かった者の報告では、家屋の崩壊は少ないが、死傷者は多いとのこと。

「ここまで、この街から近い場所が襲われたのは初めてだ。この街にも、いよいよ・・・」

トウタは4人を振り返り、「昨日の頼みについて、考えてくれただろうか」と強い眼差しを向ける。トウタの視線から目を逸らさず、ライムが答える。

「トウタさん、僕たち、戦います。でも、人間側の全面的な味方というよりも、僕たちが知りたいことのために戦うという方が近いです。すみません、不純な動機で・・・」

トウタは、静かに首を横に振る。

「いや、いいのだ。どんな理由であろうと、鬼たちと戦ってくれるというだけで。やはり、あなた方は新たな英雄に違いない」

4人が顔を見合わせる。

「トウタさん、もしよろしければ、英雄について詳しく教えてもらえませんか?」

見張り台を降り、街を歩きながら、ライムが尋ねた。トウタはまっすぐに前を向いたまま、しばし沈黙した。そして。

「英雄は・・・外の世界からやってきた、らしい」

「嘘、まじ・・・」とユウヒが口を押える。ネガも驚いて、鳥の巣頭をゆっくりと掻く。

「だから、私は昨日、心底驚いた。驚喜した。ライム、あなたの言葉を聞いて、な。伝え聞く英雄の言い伝え、英雄は外の世界からやってきた。あなた方が新たな英雄だと私が確信する理由だ」

トラヒコも、トウタに合わせて声を潜めて問う。

「それで言うと、あんたも外から来た英雄の末裔、なんだろう?」

トウタは頷く。

「すまない、昨日言いそびれていたね。ただ、私は英雄の末裔といっても、何代も続いた末生まれたに過ぎない。それも、ここ数十年の平和に浸り、腑抜けたボンクラだ」

「いや、謙遜だな。俺は相手の実力がどの程度か探るのが趣味なんだ。あんたは強い、だろう?」

トウタが苦笑する。

「鬼との戦いに備えて、稽古くらいはな。しかし、実戦経験は皆無だ。そうだ、英雄について知りたければ、良いものがある。代々、英雄の子孫に受け継がれてきた手記だ」


 宮殿へ戻る道すがら、ネガが呟いた。

「何代も続いたって言ってたっすけど、冒険譚での1日が現実世界では約2時間っす。ここでの120年くらいが、現実世界では10年弱っすね」

「英雄がどれくらい前に来たか分からないけど、それが分かればいつ頃の冒険者が書いた手記か分かるね。それを読めば、謎が解けるかな」

ライムの言葉に、ユウヒが「解けて欲しい・・・じゃないと、鬼との戦いどころじゃないよ」と頭を抱える。

 宮殿に戻り、昨日と同じように向かい合ってソファーへ腰を下ろすと、トウタが古めかしい木の箱を差し出した。


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