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43.C級冒険者試験⑨

 ルナの鞠が、ゆっくりと地に落ちる。周囲があかるくなった時、荒狂竜は既に立ち上がっていて、鼻が効かないことに苛立ってか勢いよく首を振っていた。

 その荒狂竜を円で囲むようにして、トラヒコ、ユウヒ、ナット、サクラ、シズク、ルナが立つ。


 「まず、荒狂竜の体力を、削れるだけ削って欲しいっす」

暗闇の中で、ライム、ネガ、ルナを除き、各自アオイから受け取った増強薬を飲む。アオイは、3人分の増強薬を乳鉢に戻し、さらに調合を加えていく。

 陣形を整え、合図とともに、ルナが月手鞠を解除した。


 アオイの増強薬の効果はすぐに表れた。力が漲り、大技を連発してもしばらくはもちそうである。

 シズクが先陣を切るように薙刀を廻し、大きな水のうねりを生み出す。それはシズクの姿が見えなくなるほどに勢いを増し、渦を巻いた水がシズクごと宙に持ち上げてゆく。

「奔流魚々(ほんりゅううおうお)!!」

威勢のいいシズクの声で、水流がどこか楽しそうに揺れ、大量の水飛沫が一斉に荒狂竜へむけて飛び出した。水飛沫の1つ1つが、尖った魚のように襲いかかる。

 「風舞い 竜巻」

サクラの舞に合わせて、風も舞っているようだ。トラヒコへと放った時とは比べ物にならない程、強く大きな風の柱となり、水飛沫の魚群とともに荒狂竜へとぶつかってゆく。

 水と風の激突を受け、荒狂竜は身をひねり尾を振り回した。攻撃は跳ね返したが、いくらかはダメージが残ったか、咆哮の中に怒りが込められているようだ。間髪を入れずに、壁伝いに大きく跳躍したナットが、荒狂竜の頭上へ落下してくる。

「剛雷!!」

まるで本当に雷が落ちたような音と衝撃で、荒狂竜は一瞬意識を失ったかのようにフラフラとたたらを踏むが、倒れることはなく踏ん張った。

 大技の連続の影に隠れ、ユウヒが巨大な魔法陣を展開している。会場の天井付近に、巨大な炎の塊が形成されている。

「これ、言っとくけど、そんなに何発も出来ないからね!火花 向日葵!!」

隕石のごとく、炎の塊が落下する。荒狂竜が熱さを感じて上空を見上げた時には既に遅く、直撃の後に熱風が周囲へ吹き抜けた。

 荒狂竜から、初めて聞くような、まるで焦っているような響きが、咆哮に混ざる。吹き抜けていく熱風が、吸い寄せられるようにトラヒコへと向かう。おさめた刀の鍔に左の親指をかけ、右手は鞘に、腰は低く落とす。凄まじい風の魔力が、刀に込められている。荒狂竜が数歩、後ずさりをした瞬間、トラヒコは静かに目を開くと、魔力とともに刀を抜き払った。その勢いのまま、身体の回転も加える。

「居合 疾風怒濤」

サクラへ放った疾風とは比べ物にならない。黄緑色の風の力が、太く太く宙に一文字を描き、荒狂竜の腹部に迫る。身の危険を感じたか、荒狂竜は慌てたように硬い鱗の目立つ背中で受けるが、金属を削るような音の後、ばくっとその鱗が裂けて血が飛び散った。サクラがトラヒコへと視線を送る。互いの全力を目にし認め合うような、それでいて互いに全力を隠していたことに対する嫉妬のような、不思議な感覚が走る。

 荒狂竜の目の色が変わる。受験者たちを、餌ではなく敵と認識したようだ。大顎を開き、トラヒコへと一直線に突進する。その時。

「蛍手鞠」

暗転と、一瞬の明転。それが繰り返される隙に、荒狂竜の向かう先からはトラヒコの姿が消える。他の者も暗転に紛れては位置を変え、明転したそばから荒狂竜の意表を突いた攻撃を繰り出す。おまけにルナは、鞠をつく拍子を他の者たちの動きを見て都度変えていく。荒狂竜は混乱し、自棄になって滅茶苦茶に尾や前脚を振り回し、でたらめに噛みついてみたり、手当たり次第に突進をしたりする。これが想像以上に危険であったが、そのぶん荒狂竜の体力も削いでいく。


 「陽動班が派手に動きながら荒狂竜の体力を削っている間、アオイさんが例の薬を調合して、マティーニさんがそれを弾にして、機会を伺って欲しいっす」

ネガの言葉に、暗闇の中でアオイは頷きながら返す。

「これから調合するには、少し時間がかかるかもしれません」

すると、ルナがアオイの手に、自らの分の増強薬を握らせる。

「わたしの能力、なくても関係ない」

ネガは、はじめから受け取っていなかった。

「おいらは、自慢じゃないっすけど、まだ全く消耗してないっす」

そして、ライムへはこう告げた。

「一夜漬けで上手くいくかはわからないっすけど、おいらに賭けてみて欲しいっす」

「うん、もちろんだよ。僕はネガを信じる」

目に見えなくても、ライムはネガに優しく微笑んでいるのだとわかった。

「おい、待てよ。何が『おいらに賭けてみて欲しいっす』だ。身内同士で信じ合ってるのは結構だが、そんな危ない賭けに乗れるかよ。なめてんのか」

静かに、しかしネガが縮み上がるような声色で、マティーニが述べる。

「あ、で、でも、理論はもともと習ってはいたっす・・・実践で使ったことがなかっただけで・・・お願いするっす。おいら、絶対、成功させるっすから、協力して欲しいっす」

沈黙。そして。

「マジで、絶対に成功させろよ」

マティーニの表情は、目に見えないと全くわからなかった。


 アオイは、増強薬、それも人間には間違いなく投与しない量と強さのものを調合する。その隣ではタバコを吸いながらマティーニとミュールが戦況を眺めている。

「できました。さあ、マティーニさん、これを弾丸にしてくださいな」

タバコを咥えたまま、アオイの差し出した乳鉢の中身をじっと見るマティーニ。

「さっきの香草の粉末でも思ったが、今見えてるのが全部じゃねえだろ?」

「はい。弾丸にしたら、ちょうど6発分くらいはあるかもしれません」

「お前なあ・・・」

文句を言いかけ、言い合ってもこの女とは口喧嘩にならなそうだと首を振り、乳鉢の中の薬に触れる。

 「それじゃあ、ミュールさん、そろそろご準備を~」

にっこりとミュールへ視線を移すアオイ。柔和であるのに、人使いが荒い。ミュールは諦めたように溜息をついた後、鞭を構えた。


 「薬の弾丸が完成したら、ミュールさんには1発、あの衝撃波をぶちかまして欲しいっす。イメージとしては、荒狂竜の内蔵へダメージを与える感じっす。そして、動きが止まったところに、マティーニさんが薬の弾丸を荒狂竜の口の中に撃ち込んで欲しいっす」


 シリンダーに1発の弾丸を装填すると、首をゆっくり左右に倒し、集中した表情になるマティーニ。そして。

「いいぞ、いつでも」

波動を漲らせたミュールが、頷く。それを確認したマティーニが、装填した1発を荒狂竜の頭上辺りをめがけて撃った。濃緑色の煙と光が爆発する。それを合図に、陽動班の面々が一斉に荒狂竜から離れた。

 ミュールが、勢いよく鞭を振り出す。鞭が空中を激しく打ち、凄まじい炸裂音がする。そして、轟音とともに衝撃波が荒狂竜を襲った。同時にマティーニがシリンダーに素早く薬の弾丸を装填。駆け出すと、呻き声を漏らして動きを止めた荒狂竜の口内めがけ、6発全てを撃ち込んだ。


 「疲労と内蔵の損傷がある中、さらに内蔵の動きを強制的に増強させるようなことをしたら、いくら荒狂竜と言えども苦しいはずっす。そして、膝をついたところに、ライムが勁弾を打ち込むっす。位置はおいらが見極めるっす。そして・・・一夜漬けっすけど、おいらがライムに増強魔法をかけるっす」

増強魔法は、増強薬よりも瞬間的な爆発力で優る。

「昨日の夜、理論と方法は何度も復習したっす。あとは、実践だけっすね」


 強力な増強薬を撃ち込まれ、強制的に飲み込まされた荒狂竜は、ネガの見立て通り苦しそうに悶え、地面に倒れ込んだ。手の届く位置に、鱗のない腹部がある。

「ライム、このまま向かって右側に走るっす!そして、いくっすよ、増強魔法!!」

駆け出すライムに、はじめの数メートルだけはネガもなんとか並走し、ライムの背中に手を当てて魔力を込める。ライムは光に包まれると、走りながら突然笑いだした。ネガは、何か失敗したかと焦る。しかし。

「ネガ!やっぱり僕、ネガを信じて良かったよ!!」

身体中に魔力が漲っていると、自分でもわかるくらいだ。そしてスムーズに、波動の流れを操れる。ライムが駆けるスピードを上げると、ネガは一瞬で置き去りに・・・されなかった。ネガは自身の脚にも増強魔法をかけたのだ。

「弾丸を飲み込んでから効果が表れるまでの秒数からして、胃の位置はここら辺、ということは、急所はだいたい、ここら辺っす!!」

ネガの示す場所へ一足飛びに向かうと、腰を落とし拳を荒狂竜の腹部へ添える。

「勁弾!!」

波動の流れが、荒狂竜を貫くのがわかった。悲鳴に近い咆哮。確実に効いている。それなのに、荒狂竜はまだ立ち上がりかけている。すぐさま2発目を打ち抜きたいが、腹部が持ち上がり、遠ざかる。

「うぐっ・・・勁弾は、両足が接地していないと、上手く威力が伝わらない・・・!」

焦るライム。その時であった。風が踏み台のように、乗せたライムを持ち上げる。

「いけ!!」

トラヒコが刀を構えて叫ぶ。

「勁弾!!」

ライムが打ち込むのと、風の踏み台が消えるのが同時であった。2発目の勁弾をくらい、荒狂竜は吐血して倒れこむ。そこまでしてもなお、荒狂竜は立ち上がる気力があるようだ。

「ライム!!決めちゃって!!」

ユウヒの声とともに、炎が荒狂竜へと向かう。水飛沫が、風が、弾丸が、鞭が、拳が、残った魔力を振り絞るような攻撃が、荒狂竜を押さえつけるように放たれる。

「勁、弾!!!」

3発目、ライムは自分の腕から血が噴き出すのも構わず、全力で打ち込んだ。ついに、荒狂竜は立ち上がることが出来ないまま、のたうち回る。そして、必死に大顎を四方八方へ向けて噛みつこうとする。

「まだ、制圧とは、言えないのかな・・・!?」

ライムの意識が朦朧とする。倒れこみ、何度か瞬きをして、ようやくはっきりと荒狂竜の姿が見えた。そして、荒狂竜の背中によじ登る、ネガの姿も飛び込んできた。

「ネ、ネガ!?」

「美味しいところだけ、持っていくみたいで、申し訳ないっすね・・・」

ネガの手には、冒険譚。

「この中に戻せば、一旦は制圧っす、きっと!」

ネガが冒険譚を開き、荒狂竜に被せるように押し付けた。


 光とともに、荒狂竜が本の中へ戻されていくようだ。荒狂竜も抵抗せず、むしろ逃げ出すかのように自ら頭を突っ込んだ。巨体が、尻尾の先まで、全て消え去り、ページが閉じる。

 「そこまで、2次試験を終了とする!!」

ドロデンの号令が響き渡った。

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