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41.C級冒険者試験⑦

 試験会場の入口は、昨日とは打って変わって静かであった。ライムたちは、ジャンベの声援に手を振って応え、4人揃って会場へ入る。入口に昨日の「オタク」集団がいなかった理由が分かった。既に、ブジンカ国の四戦姫は会場入りしていて、オタクたちは観客席の一角を陣取っていた。オータの姿もある。試験前の集中を高める時間を邪魔してはいけないと、そんなオタクたちの気遣いか観客席は静かである。

 サクラは黙想をしていたようだが、ライムたちが会場入りした気配を感じたか、目を開くと軽くこちらに一礼した。シズクが「ニマール国も4人残りか、やるねえ!」と笑顔で迎え、アオイもユウヒやネガに微笑んで会釈した。ルナは無表情でライムたちを眺めていたが、やがて興味なさげにあくびをした。

「あの、昨日はどうもありがとうございました。違うギルドなのに、うちのこと助けてくださって」

ユウヒが、アオイに近寄り礼を言うと、アオイは恐縮したように顔の前で手を振った。

「そんなそんな、気にしないでください。わたしも、皆さんと一緒に2次試験へ進みたかったので」

トラヒコはサクラを悔しそうな表情で見つめていたが、はあっと息を吐き出し、アオイに返した。

「そっちは、誰かから聞いてるのか?2次試験が受験者同士の助け合いが重要だってこと」

四戦姫は全く動じる様子もなかったが、ライムとユウヒは驚いたようにトラヒコを振り返った。

「え、あんた2次試験の内容、知ってるの?」

「そ、それなら教えてくれたって・・・」

ライムはそう言いかけて、例え知っていたからといって試験に向けてやってきたことは変わらないだろうし、1次試験への取り組みだって同じだっただろうなと思い返し、その先は続けなかった。

「実は、おいらも少しは知ってるっす。というか、2人は過去の試験がどんなだったか、調べたりはしなかったっすか?」

ネガの言葉と、呆れたようなトラヒコの表情に、ユウヒは慌てて「だ、だって、魔法の勉強に必死で・・・」と言い訳をする。

「僕も、試験に備えて特訓するだけだったよ。確かに、そういう対策も重要だったね」

ライムは後ろ髪に手を当て、反省した様子だ。

「わたしらは、先輩方から教えられてたよ。でも、毎年そうだからって今年も同じとは限らないし、そもそも2次試験を見越して取り組むほど、1次試験だって甘くはないって言われてたからね。協力できる相手とはするし、そうじゃない相手とは全力で戦うつもりでいたよ」

シズクがそう言うと、アオイも続ける。

「そうそう、だからわたしがしたことは、2次試験の人数を増やすようにとか、そんな理由ではないです。いつもの癖で、目の前の人を助けるために自然と動いていて・・・」

ネガが、落ち込んだように俯く。回復役としての技量も、とっさの行動力も、自分が劣っているところばかり浮かんでくる。

「それに、試験の説明では『試合』とありました。ですから、双方が結果を認め合っていれば、それ以上の勝負は不要と判断しました。あちらの方も、そう思われていたことでしょう」

サクラはそう言うと、入口の方へと目をやった。


 ブイン、と音がして、会場にナットが現れた。ナットはライムたちに愛想よく手をあげて挨拶し、四戦姫にも笑顔で会釈した。

「2次試験開始前に、こうやって言葉を交わす時間があってよかったよ。なにせ、2次試験は・・・」

「受験者同士の協力を求められるかもしれない、ですよね」

ライムが続ける。

「まあ、僕は今日のことがなくても、ライムくんにトドメを刺す気にはなれなかったよ。僕たちは、これからもお互いに高め合えると思ったからね」

ナットの言葉に、ライムは少し安心した。2次試験の傾向を聞いて、もしかしたらナットもそれを見据えたうえでライムを戦闘不能にしなかったのではと、一瞬頭に過ぎったのである。

「よかった。昨日のナットさんとの試合で、僕、強くなることって楽しいし嬉しいことなんだって、感じたんです。だから、ナットさんもそう思ってくれているのなら・・・」

ナットは優しく微笑み、頷いた。


 再び、ブイン、と音がして、マティーニとミュールが入ってくる。マティーニはこちらを見やると、ユウヒの姿をみつけて嘲笑うように、撃たれて吹き飛ぶ真似をした。

「あ、あいつぅ!!うち、あいつとは協力なんて出来ないからね!ほんと、ムカつく!!」

ユウヒが憤慨して地団駄を踏む。

「あの人たちも、おいらたちと協力なんて御免だって雰囲気っすね」

ネガが言うように、マティーニとミュールは他の受験者たちの集まりと別方向へ歩みを進め、合流はしなかった。

「コルアール国は、そもそも冒険者のランクにそこまで重きを置いていないんだ。級を持っていなくても、実力があればそれでいいと。だから、試験の合否がかかっていても、彼らに協力の意思がなければ望めないだろうな」

ナットの言葉に、ユウヒが反応する。

「じゃあ、試験なんて受けなきゃいいのに!あいつらが協力しなかったから、ううん、それどころか邪魔とかされて、みんなの結果に影響したらどうするのよ!」

ユウヒの噛み付く矛先が珍しく自分ではないこともあってか、トラヒコが冷静な口調でなだめる。

「2次試験のルールにもよるが、俺らの協力を促すものなら、それを妨害する行為は失格になるだろう。もし失格にならないのだとしたら、俺らの反撃だって許されるはずだ。返り討ちにしてやりゃいい」

トラヒコの言葉に、ライムも頷く。

「あの2人のことは、一旦ないものとして考えよう。僕はあの2人と接したことがないから分からないけど、協力が無理なら求めない。でも、僕たちを妨害するメリットがあるのかな。もしもそうなったらトラヒコの言うように対処すればいいけど、僕はなんとなく、あの2人は他のコルアール国の受験者と違う雰囲気を感じるんだ」

そこまで言って、ふとライムが振り向くとユウヒが憤怒の表情をしていたので、慌てて「もちろん、嫌な人たちなんだろうけどね!」と付け加えた。


 本日3回目のブイン、の音とともに、ドロデン率いる試験官たちがやってきた。

「受験者諸君、揃っているな。これより、2次試験の説明を行う」

観客席の一際高い位置に、カザフネが座る。今日は、魔具スーツ会社の社長の姿はない。

「2次試験でも、この会場の性質、『仮想空間』を利用する。先に説明をした通り、この会場は普段、戦闘のシュミレーションにも使われている。例えば、高ランクの冒険譚から放たれた魔物を討伐する訓練、などだ。今回の試験、諸君が挑むのは、そういった高ランク・・・具体的には、かつてAランクの冒険譚から実際に放たれた魔物、通称『荒狂竜』だ。実際には、A級冒険者が4人がかりで制圧した魔物だが、今回は諸君ら11人で討伐してもらいたい。ルールは単純だ、対象を討伐もしくは行動不能の状態にすること。1次試験と同様、現実世界で致命傷となる程度のダメージを負った場合、そしてそれが直ちに回復されない場合は、失格となり強制転送される。以上」

説明を終えたドロデンが、他の試験官たちに合図を出す。四方八方へ散った試験官たちは、例によって映像魔具を用いて様々な調整に入ったようだ。

 突然、試験会場の中心に、1冊の本が現れた。冒険譚だ。その冒険譚が、激しく震え始め、ページが勢いよく捲られる。

 一瞬の静寂の後、咆哮が響いた。本能が、逃げ出すことを命じているような、心臓が激しく鳴り響き、思わず耳を塞いでしまうような、恐怖を音にしたような咆哮だった。「ひっ」とユウヒが飛び退き、ネガが腰を抜かしてへたりこんだが、トラヒコも2人をからかう余裕がない様子で思わず刀を具現化した。ライムの脳裏に、赤鬼や上噛み様の姿が浮かんだが、今まさに冒険譚から現れようとしているのはそれ以上に危険な存在であると確信出来る。トラヒコに続いて、四戦姫も、蠍の謀りの2人も、武器を具現化し、それを感じたライムも拳を握り締めてグローブを具現化させた。

 ユウヒが、何度も深呼吸を繰り返し、覚悟を決めたように杖を出し、「ほら、ネガ!あんたも早く!」と発破をかけた。よろよろと立ち上がりながら腕輪を嵌めたネガ。それを待っていたかのように、冒険譚から何かを引きちぎるような音を立てて、巨大な頭部が現れた。白く光る眼、口には何もかもを引き裂くような牙がずらり、顎も噛み砕けないものなどないくらいに逞しい。身体を引き上げるように外へ突き出されて地面を掴んだ前脚も筋肉の塊で、手には牙と同じように鋭い爪が並ぶ。後ろ脚はさらに太く、地面を踏みしめて立ち上がると、会場の天井に届きそうな程である。そして、しならせた長い尻尾は、その一撃だけで周囲を一掃してしまいそうだ。翼の類はないようだが、体中を覆う鎧のような鱗は、並大抵の攻撃では貫くことは不可能だろう。

 試験会場の環境は1次試験のように変化しなかったが、唖然として荒狂竜を見上げた時に、観客席が見えなくなっていることにライムは気がついた。そうだ、もうここは、仮想空間の中だ。

 ドロデンの声が響く。

「はじめ!!」


 C級冒険者試験、2次試験、開始。

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