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4.冒険へ

 腕を組んで、目を閉じて、「ううう・・・」と唸るユウヒ。

 掲示板の前でこうして、もう30分になる。

「まだか?」

椅子にもたれて足を投げ出し、退屈そうなトラヒコ。その横で、メガネを鳥の巣頭にのせて、机に突っ伏し寝息をたてるネガ。

「やっぱり、僕たちの初めての冒険だから、迷うよね」

ライムもユウヒの隣で、1つ1つのあらすじを読みこんでいる。

「なんでもいい。そもそも、Eランクの冒険譚なんて、1人でも十分なんだ」

とうとう、ユウヒがトラヒコを振り返り、「あんたねえ!」と憤る。

「そんなに言うんなら、さっさと1人で行ってくればいいでしょ!?」

「残念ながらこのギルドでは、C級までは4人1組みじゃないと受付で弾かれる。『本』に入れる限度の人数だ。だから、わざわざ俺は、お前らとパーティーを組んだんだ」

顔の前で煩わしそうに手を振り、トラヒコが返す。

「だったら、文句言わずに待ってなさいよ!」

ユウヒが、なんなのよ、とまた腕を組んで掲示板に向き直る。

 「ねえ、質問なんだけど・・・。未完の冒険譚に入れるのって、4人までなの?」

ユウヒが呆れたように、今度はライムに「あんたねえ、そんなことも知らないで・・・」と言いかけ、諦めたように言葉を続ける。

「あのね、どんな未完の冒険譚も、4人までしか入ることができないの。なんでかはわからないけれど」

「正確には、4つの命っすね。冒険譚の中で冒険者が1人死ぬと、冒険譚の定員が1つ空くってわけっす。上位ランクの未完の冒険譚の中には、何人もの冒険者が帰らないまま、命の枠が4つ全部空いているなんて本もあるみたいっす」

目を擦りながら顔を上げたネガが、補足する。「あくまでも、研究者によるとってだけっすけどね。おいらはそんな本、見たことないっす」と続ける。

「そういう本は、国が・・・」

トラヒコがそう呟いたのは、ライムにしか聞こえなかったのかもしれない。ライムが振り返った時にはトラヒコは睨むように天井を見つめていて、話しかけてよい雰囲気ではなかった。


 「いやあ、今日も精が出るなあ」

ルンポが手で顔を仰ぎながら、ギルドに入ってくる。横には、大あくびをするシン。

「おお、お前たち!ついに最初の冒険か?どれどれ、今あるEランクの依頼は・・・」

ルンポが、ライムとユウヒの間から掲示板を眺める。

「お、これなんかいいんじゃないか?『森の中には、沢山のキノコに薬草。近くの村からは人々が収穫に訪れています。でも、森の中は危険もいっぱい。周りもちゃんと、よく見てね』、キノコも薬草も拾得物として持って出てくれば、報酬も弾むんじゃないか?」

あらすじを読み上げて、勝手に写真を剥がして、ライムに渡すルンポ。「え、ちょっと!」と慌てるユウヒに、「やっと決まったか」と立ち上がるトラヒコとそれに続くネガ。

 ユウヒを、「まあまあ」と宥めながら、改めてルンポに渡された依頼の写真とあらすじを見直して、「ありがとうございます、これに決めました」とライム。

「実は、僕もこれがいいかなって、思ってたんだ。ユウヒも、一番この依頼を見てたかなって」

指摘されて、ユウヒは頬を膨らませながら、「まあ、そうだけどさ・・・」と返す。

 「よしよし、頑張ってこいよ!」とライムの肩を叩き、ユウヒの肩も叩こうとして軽くいなされて、頭を掻きながらシンのもとに戻っていくルンポ。シンは、椅子に座ってぼおっと一部始終を眺めていたけれど、ルンポが戻ってくると立ち上がり、でんえんの暖簾の向こうに首を突っ込んで、「ハクビちゃ~ん、餃子と唐揚げとお酒ちょうだ~い」と声をかけた。

 腰に下げたグローブを手に嵌めて、呼吸を整えるライム。ついに、冒険者になったのだと、突然実感が湧いてくる。ふと他の3人を見ると、杖を抱くようにぎゅっと握り締めるユウヒ、腕輪を何度も袖で擦るネガ、そしていつの間にか訓練場に向かっていたトラヒコが、腰に刀を差して戻ってきた。


 受付ではモカが、「いよいよですね!リラックスなさってください、皆さんならきっと、この物語を完結させることができるはずですから!」と励ましてくれた。

「でも、万が一、危険を感じた場合はすぐに脱出してくださいね。本の中には、『出入り口』があります。本の中でどんな危険に遭遇しても、そこに入れば脱出することができます。命ある限り、冒険に失敗はありません。何度でも、挑戦し直せばいいのですから」

モカの真剣な表情に、ライムも同じくらい真剣に頷いた。

 未完の冒険譚の中に冒険者が旅立っていく様子は、昨日何度か見た。モカが、冒険譚の表紙を捲ると、白紙のページが現れた。トラヒコが真っ先に、そのページに手をあてる。

「早くしろよ」

トラヒコの声に、ネガもすっと手をあてた。ユウヒが、ゆっくりとそれに続く。トラヒコが、「どうした、怖いのか」と揶揄うようにライムに笑いかける。

「ううん、心が跳ね飛んでいるみたいで、これはきっと、わくわくだよ」

ライムがページに手をあてると、モカが「では、皆さん、いってらっしゃいませ」と、表紙を閉じて4人の手を挟み込むようにした。


 横に揺れているのか、縦に揺れているのか、自らが揺れているのか、世界が揺れているのか。

 視界が段々とぼやけてゆく。

 明るいのか、暗いのか、暖かいのか、寒いのか、広いのか、狭いのか、楽しいのか、悲しいのか、段々と感じ方もぼやけてゆく。

 それが、徐々に徐々に、収まってきて・・・。


 いつの間にか瞑っていた目を開くと、そこは木々の生い茂る森の入口であった。

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