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39.C級冒険者試験⑤

 試験会場の観客席。試験の様子は、近くに飛んできた映像魔具で確認できる。一方、目視では会場に霧がかかったようになっており、何も見えない。「仮想空間」が展開されているからであろうか。映像魔具では、受験者ごとに画面を切り替えることも可能だ。ジャンベは先程から、ライム、トラヒコ、ユウヒとネガの画面をしきりに切り替えながら、食い入るように見つめている。

「皆さん、頑張ってください・・・!」

その横で、リキも熱く画面に見入っている。ひとつ後ろの席で、ミツカとナガレはやや冷静だ。少し離れたところでは、オータ含む「オタク(推し活を楽しむ組合)」の集団が案の定、乱桜会の四戦姫を熱狂的に応援している。観客席の上層には、空の羅針盤ギルドマスターのカザフネと、魔具スーツ会社の社長、そして試験官の1人であるドロデンが座っている。一際大きな映像魔具で会場の様子を確認しているようだ。戦闘不能となった受験者たちは、反対側の観客席へと転送されている。今まさに、マクル国の1人と、蠍の謀りの1人が転送されてきた。

 並んで応援に力の入るジャンベとリキの頭越しに、組んだ脚に肘を置いて画面を眺めていたミツカが、冒険者ではないナガレに説明する。

「C級冒険者試験の1次では毎回、ある程度の実力と状況を判断する力が求められる。特に後者。実力は明らかに劣っていなければなんとかなる。既に脱落している受験者はお世辞にも、明らかに劣っていないとは言えないけれど・・・。でも、今の時点で残っている受験者は、全員合格の可能性があるわ。あとは、試験のルールを思い出すこと。冷静に考えれば、これが本当の戦いではなくて試験だってことが、分かると思うのだけど」

ナガレが椅子の背にもたれ、問う。

「これ、全員気がつかなくて、最後の1人になるまでやりあったらどうすんの?その前に試験官が止めるのかな?」

ふふっと、笑みをこぼすミツカ。

「そうなってしまったら、2次試験は大変よ。最後の1人になってしまった子もね。たいてい、2次試験は・・・」

ミツカが言いかけたとき、ジャンベとリキが「ああ!」と声をあげた。

「トラヒコさん!!」


 砂埃で周囲からその向こう側の様子は見えない。それこそ、観客席から映像魔具で確認しなければ。巻き上げられる砂が周囲を覆う壁を張っているようである。しかし、その壁の向こう側、互いに風を纏って斬り結ぶ2人の周囲は、砂が吹き流されて視界が開けている。

 トラヒコが袈裟斬り、横一文字、逆袈裟、身を捻った勢いにまかせて刀を斬り払い、さらに風の斬撃を飛ばす。サクラはそれを、舞うようにいなし、見切り、飛んできた斬撃を二刀の脇差で斬り消し飛ばした。そこから独楽のように回転し、無数の斬撃を飛ばす。トラヒコも刀捌きでそれらを斬り応じる。互いに譲らぬ斬り結びが、続いている。

 ふと、両者が間合いを取った。息が乱れる両者。しかし、サクラはすぐに呼吸を整え、脱力したように両腕をおろした。そして。

「風舞い 竜巻」

脱力した姿勢から、突如として凄まじい速度の回転。二刀の纏った風が形を成し、風の柱となる。それは舞うようにゆらゆらと揺れながら、トラヒコへと襲い来る。トラヒコは、刀を鞘に収めると、大きく息を吐き出した。それから腰を落とし、刀を抜き払う寸前の姿勢を取る。風の柱が間合いに入るまで、ひたすらに風の魔力を刀に集中させる。そして。

「居合 疾風」

刀を抜き払うと、黄緑色の風の力が宙へ筆を走らせたように一文字を描き、風の柱を真っ二つに斬り倒した。途端に、2人の周囲を覆っていた砂の壁が崩れ、爆炎のように砂が舞い上がった。徐々に、徐々に視界が晴れてゆく。

 完全に視界が開けた時、立っていたのはサクラであった。トラヒコは地に膝をつき、立ち上がることが出来ない。完全に力を使い果たした。サクラは、何度か咳き込むと、呼吸を整え、二刀を鞘におさめた。

「ありがとうございました」

サクラは一礼をすると、その場を去ろうと踵を返す。しかし、ふと立ち止まると、トラヒコへと向き直る。

「よろしければ、貴方のお名前をうかがってもよろしいでしょうか」

トラヒコは、やっとの思いで立ち上がると、サクラを睨みつける。しかし、ふんっと悔しそうに鼻を鳴らすと、深呼吸をして落ち着きを取り戻す。

「トラ・・・ヒコ」

悔しそうに、渋々ではあるが、名乗る。

「俺の負けだ」

刀を鞘におさめると、サクラにそう呟いた。

「またいつか、お手合せ、よろしくお願いします」

そう言うと、今度は迷うことなく踵を返し、サクラはその場を去った。


 木々の間では、マティーニが様々な効果の木の実を弾丸として撃ち、ユウヒを追い回す。ユウヒも逃げ回りながら炎で応戦し、マティーニが木の実を装填するために宙へ具現化したところを狙って焼き払おうとするが、マティーニは巧みに装填のタイミングで物陰に隠れるため上手くいかない。

「ちょっと、あんたやっぱりズルい!そうやって隠れてばっかり!」

ユウヒが地団駄を踏むと、そこに青い弾が撃ち込まれる。慌てて飛び退いて、ユウヒも木の後ろ側に隠れる。

「どっちがだよ。お前がちょろちょろ逃げ回るから、こっちは追いかけっこに付き合ってやってるんじゃねえか」

マティーニが、先程までユウヒが地団駄を踏んでいた場所に迫り、ユウヒの隠れる木に向かって銃口を構え、黄色の弾丸を撃ち込む。木に当たった弾は潰れると、そこから放電し。木を包み込む。

「痛ったぁぁぁあ!」

ユウヒが、木から弾き出されたかのように前方へ吹き飛んだ。マティーニはそれを見て、声を上げて笑う。

「うひゃひゃ、なんだ今の。面白れぇリアクションすんじゃねえか。おい、もう1回見せてみ・・・」

マティーニが笑いながら、玉の装填のために木の実を宙へ具現化させた途端。足元に違和感を覚えたマティーニは、すぐさま後ろへ飛び下がった。地面に、魔法陣が展開している。

「火花 蒲公英!」

背中をさすりながら立ち上がったユウヒが唱え、魔法陣から激しく火柱が上がる。マティーニはそれを躱したが、具現化された木の実、弾のストックは全て焼き尽くされた。

「やりやがったな・・・罠を仕掛けてやがったか」

「ふふん」と得意気な笑みを浮かべ、杖をマティーニへ向けて構える。

「これで形成逆転ね」

しかし、マティーニは不敵な笑みを崩さない。手にした拳銃は、すぐそばの木に銃口を押し当てられていて、引き金も引かれている状態だ。

「お前、ほんとに面白れぇリアクション取るなあ。ほんと、面白れぇ・・・せっかくのゲームだから、相性最悪の炎属性と遊んでやったけどよ、最後も本来なら相性最悪の弾で終わらせてやるよ」

マティーニが、拳銃をユウヒに向ける。先程まで銃口を押し当てられていた木は、ユウヒは今になって気がついたが、萎れたように枯れている。

「あばよ」


 時を同じくして。

「ユウヒ、危ないっす!なんかやばい予感がするっす!」

ネガが声をあげる。ユウヒも、萎れた木の異変に気がつき、マティーニへ向かって炎の魔法を噴射した。

「あばよ」

マティーニの拳銃から、深緑色の弾・・・明らかに木の実ではなく、まるで深緑色の光の塊が銃弾となったように放たれ、ユウヒの炎魔法を貫いた。ユウヒは貫かれるより早く撃ち負けると感じ、炎の壁を展開して守りに入った。それでも、深緑色の光の塊は炎をものともせずユウヒへ迫る。

 その時であった。ユウヒの背後からアオイが現れると、「お口開けてくださいね~」とユウヒの口を有無を言わさずこじ開け、舌下に管を差し込むと、何かの液体を垂らした。その途端、ユウヒの体全体が燃えるように熱くなり、魔力が血管を走り抜ける感覚と共に、杖先から噴射される炎の威力が倍増した。炎の壁がもう一枚内側に展開し、寸でのところでマティーニの弾の威力を削いだ。弾はユウヒの腹部に直撃したが、致命傷にはならず、転送もされずに済んだ。

 すぐさま、茂みからネガが駆け出してきて、ユウヒに回復魔法で処置を施す。アオイは、それを確認すると、マティーニと向き合った。

「あ、あの~、この辺でどうでしょう。わたしたちみんな、2次試験に進みたい想いは一緒ですし、潰し合いは避けませんか?」

アオイが、マティーニへ笑いかける。マティーニは、拳銃の引き金に指を引っ掛けてスピンさせ、ジャケットの内側に隠れていたホルスターへおさめると、代わりにタバコを取り出し火をつけた。

「あっちも、そろそろ飽きてくる頃だろうしな」


 川辺にて。マクル国の魔具スーツ集団は徐々に数を減らしていた。そのほとんどが、シズクの薙刀でいなされて、焦れた結果魔力の制御を誤り自滅した者たちであった。また、平らな岩に座り、時折手にした鞭で煩そうに魔具スーツ集団の相手をしていたミュールは、とうとう欠伸をして詰まらなそうに空を仰ぐ始末であった。ミュールの元へ数人、蠍の謀りのメンバーがやってきて、勝手に加勢をはじめ、薙刀を振るうシズクはついに憤慨した。

「もう、面倒くさい!!あんたら、本当に、邪魔!!」

シズクは勢いよく薙刀を振るい回転すると、叫んだ。

「ルナ、いいよ、やっちゃって!!」

ルナは相変わらず、表情を変えないまま攻撃を躱し続けていたが、シズクの叫びに「・・・わかった」と返す。ぽんっと音を立て、鞠を具現化するルナ。

「蛍手鞠」

ルナが、鞠を地面につく。その途端。川辺の周囲が真っ暗闇になった。もう1度、鞠が地面につく音と共に、一瞬だけ周囲は元通りの明るさを取り戻す。そして、また真っ暗闇だ。鞠が地面につく、ぽんっという音と共に、その後も一瞬だけ周囲が明るくなることを繰り返す。その間に、微かな水の音、飛び散る水しぶき、薙刀が振るわれた風圧を感じた者から順に倒されていった。ルナが鞠を両手で捕まえると、周囲は明るいままとなった。ちょうど、蠍の謀りの1人が転送されていくところであった。

「さ、ミュールさん!もうわたしらの能力はなんとなくわかったでしょ?いつまでもジロジロ見るの、やめてくれないかな」

シズクの声に、ミュールが立ち上がる。鞭が、紫色に輝いている。

「あ・・・えっと、もしかしてそれ、攻撃しようとしてる・・・?嘘、前言撤回!!いくらでも見てくれていいから!!」

慌てるシズクをよそに、ミュールが鞭をしならせ、前方へ振り出した。鞭の先が弧を描き、鞭全体が1本の棒のようになる。その瞬間。目にも留まらぬ速さで、ミュールが手首を手前に引いた。凄まじい炸裂音。まるで、鞭が打った空中が割れたかのようだった。そして、炸裂音と同時に、前方へ衝撃波が放たれた。周囲の木々がなぎ倒され、川の水が波打ち、石や砂が飛び散った。

 衝撃波が通り抜けた後、円形の大きな水の塊がそこにあった。やがて、それが割れ、びしょ濡れになったシズクとルナが現れる。

「げほっ、ちょっと、やるなら言ってよね」

むせながら苦笑いするシズク。何事もなかったかのように、濡れた服の裾を絞るルナ。

「こっちの能力も、見せてあげたから」

ミュールは悪びれることなく、中性的な声でそう述べた。


 芝生の広場。装甲に身を包んだナットが電撃を纏った拳を振るい、波動を纏った拳でライムが応戦する。真正面からの打ち合いだ。拳の打ち合いの間に、蹴りも繰り出され、動きの種類も増えてくる。まるで互いの実力を確かめ合い、自らの技を試し合っているようだ。ナットの拳を掻い潜り、ライムが伸びきったナットの腕に波動を飛ばす。すかさずナットは腕を折り曲げ、肘でそれを弾き返す。その勢いで体を捻り、ナットが電撃を拳から飛ばすと、ライムは腕全体に波動を纏い殴りつけ、電撃を消し飛ばす。

「強いね、ライムくん。ちゃんと訓練して、ちゃんと学んで、ちゃんと冒険をしてきた強さだ。素晴らしよ」

ナットが嬉しそうに頷く。

「でも、まだ本気じゃない、そうだろう?」

ライムも、本来ならば闘いが好きなわけではないのに、わくわくが止まらない。

「はい!まだまだ!」

楽しい。自分の実力を、こんなに強い人と試し合えるなんて。今なら、レモン姉さんとだって、もっと楽しく体術の訓練が出来るかもしれない。強くなるって、楽しいんだ。嬉しいんだ。ライムは無我夢中で拳を振るいながら、初めての感情を噛み締めていた。

「よし!お互いに本気の一撃をぶつけ合おう!!」

ナットの呼びかけに、「はい!!」と勢いよく返すライム。ここでなら、「あれ」を本気でぶつけても、大丈夫。それに、ナットなら「あれ」を受け止めてくれると思う。

 ライムは呼吸を整え、無駄な力みを抜いてゆく。そして、倒れこむ勢いで足を前にだし、その勢いで反対の足を続かせ、足の裏に波動が集まり地面を蹴ると凄まじい勢いでナットの懐へ潜り込んだ。腰を落とし、波動の流れを感じつつ拳をナットの腹部へあてた。

「勁弾!!」

 ナットは懐に潜り込んだライムの頭部をめがけ、肘に電撃の出力を集中させると、そのまま振り下ろした。

「剛雷!!」

 弾き飛ばされたナットと、芝生に叩きつけられたライム。ライムは朦朧とする意識の中、差し出された手を握った感覚があった。段々と意識がはっきりとしてくると、正面にナットの満足そうな笑顔があった。

「参り・・・ました・・・僕の負けです・・・」

「いや、互角だったよ。僕だって、ほら」

ナットの装甲は、腹部に拳の大きさの穴が空いている。

「あ・・・すみません・・・」

「いや、いいんだ。直せるよ。それに、ライムくんとの闘いで、こいつも成長出来たんだ。ありがとう」

ライムは、ふと気になったことを尋ねる。

「あれ、どうして、僕にとどめを刺さなかったんですか?試験なのに・・・」

ナットはそれを聞き、やれやれと頭を振った。

「ライムくん、それだよ。試験なんだ。それに、試験官も言っていただろう。『試合』って。なにも、どちらかが戦闘不能になるまでやる必要はない」

「あ、そういえば・・・」

ライムが試験開始前の説明を思い出すと、ナットは続けた。

「1次試験は、自分の実力がC級に相応しいかどうか、他の受験者と試し合うことが目的だったんだと思う。なんなら、お互いに『試合』として全員が戦っていれば、もしかしたら全員突破することだってあったかもしれない。まあ、うちの国の魔具スーツの制御も出来ない連中は、いずれにせよ自滅しただろうけど。多分、試験官は意図的に試験のルールを最低限しか説明しなかったんじゃないかな。僕たちが想像力を働かせるために。そして、これが僕の答えだよ。試合、ありがとうございました」

ナットがライムに一礼する。ライムも慌てて、「あ、ありがとうございました!」と礼を返す。


 「そこまで、1次試験を終了とする!!」

観客席から、ドロデンが号令をかける。会場の「仮想空間」が解け、観客席から肉眼で受験者たちの様子が分かるようになった。

 「こ、この、馬鹿者どもが!!」

魔具スーツ会社の社長が立ち上がり、わなわなと拳を震わせている。それを全く意に介さず、カザフネも立ち上がると、ドロデンと共に会場へとおりていった。

 ジャンベが飛び上がって喜び、リキがジャンベをキャッチするとそのまま高く掲げる。

「みなさーん!!凄かったですよー!!」

2人が大喜びしている後ろで、ナガレがミツカに尋ねる。

「そういや、さっき言いかけたな。2次試験、もしも1人だけ通過だったら、どうなってたんだ?」

ミツカも1次試験を突破した竜の筆の面々に拍手を贈っていたが、ナガレの問いに「ああ、そのことね」と返す。

「毎回、C級冒険者試験の2次は、受験者同士の助け合いがテーマだから。最後の1人になるまで状況が読めないような子は、いくら強くても2次の突破は不可能なようになってると思うわ。でもね。うちのマスターはそんなことはしないけれど、ギルドによっては試験の傾向を受験者に教えているところもあるでしょうし、ある程度人数を残した状況で1次を乗り越えなければいけないと分かっていた受験者だっていたかもね」

ミツカの答えに、ナガレは「ほーん、そんなもんかね。滅茶苦茶強くて、他の奴らを全滅させちゃうような受験者でも、周りのことを考えないと不合格ってことか」とタバコの煙を吐き出した。

「そうそう。あくまでも、冒険者は冒険者同士、助け合いましょってことね。国や立場を越えて」


 1次試験合格者、11名。

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