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18.「勁弾」

 訓練場の地べたに大の字で転がると、突き抜けるような秋晴れの空が広る。しばらくは立ち上がれない程に身体が悲鳴をあげているけれど、不思議と爽やかな気分で、ライムは思い切り息を吸い込んだ。

 オロチ山でライムが赤鬼に放った技を、トラヒコはしきりに目にしたがり、早朝からライムの部屋を訪れた。ライムとしても、あの技を自分のものにしたい気持ちはあり、さっそくギルドの訓練場へと繰り出したのであった。まだ早い時間帯であったので、自分たちの貸し切りであろうと思っていたら、既に先客がいた。B級冒険者の、リキであった。

 汗だくになりながら、四股を踏み続ける、リキ。そして、ライムたちに気づくと、「おお、君たち!向上心があっていいじゃないか!」と手を挙げて歓迎した。


 リキがサンドバッグを抱え、それにライムが拳を合わせる。そして、赤鬼へ放ったものの半分くらいの波動を放つ。サンドバッグが振動し大きく凹むが、リキはその場に根を張ったかのように動かない。トラヒコは腕を組みじっとその様子を見ていたが、「お前、本気じゃないだろ?」とライムを睨む。リキも、「いいんだぞ、本気でやっても。このサンドバッグは、ちょっとやそっとでは壊れないから」と頷く。自身へのダメージがあるかなど、微塵の不安もなさそうだ。

「じゃ、じゃあ・・・いきます!」

今度は、腰を落とし、踏み込んで間合いに入ると、素早くサンドバッグに拳を合わせる。ライムが、気合いとともに発した波動は、サンドバッグの全体を激しく揺らし、拳の形に陥没した箇所から突き抜けるように反対側へと流れ、踏ん張るリキを数歩分後退させた。

「おお!素晴らしいな・・・!」

感心するリキと、穴が開くほど真剣にみつめるトラヒコ。しかし。ライムはふらふらと倒れこんでしまう。右腕が、焼けるように熱い。内出血も広がっている。

「大変だ、これは酷い。威力は凄まじいが、相応の代償を払わなければいけないのだな」

リキが、ライムを担ぎ上げる。そこへ。

「あら、よかったらこれ、使う?」

いつの間にか訓練場のベンチに座っていたミツカが指をしなやかに動かすと、ヌメヌメとした粘膜に覆われた分厚い葉が現れた。


 ミツカの具現化した葉を腕に巻くと、熱を帯びていた腕にひんやりと心地よく、内出血も次第に収まっていくようだった。ライムは、「ありがとうございます、ミツカさん」と感謝しつつ、粘膜を興味本位で突っついてしまい、指が絡め取られてしまった。なんとか引き抜くと、一瞬で爪が少し伸びたような気がした。

「ライム、さっきの技は誰に?」

トラヒコの問いに、そういえばレモン姉さんのことをトラヒコ含め、他のみんなに詳しく話したことはなかったかなと思い出す。

「僕を育ててくれた、親戚に。体術の基礎から叩き込まれたんだ。この技もそう。今思えば、僕のこの技、今でもその人の全力には及ばないんじゃないかな」

しばらく黙り込んで腕を組んでいたトラヒコだったが、おもむろに口を開く。

「まずは、威力を上げるよりも、それを何発か連続で出せるようにしたほうがいい。代償も、もしかしたら波動の流し方を工夫すれば、最小限に抑えられるかもしれない」

トラヒコの言葉に、リキも頷く。

「ところで、ライム。その技の名前は、なんというんだ?」

リキが、興味津々といった面持ちで尋ねる。

「あ、えっと・・・。レモン姉さん、技の名前なんて言ってなかったような・・・」

記憶をたどるライム。

「もし名前がなければ、『勁弾』というのはどうだい?芯のある突き抜けるような波動の弾。さっき技を受けてみて、そう感じた」

リキの提案に、ぱっと顔が明るくなるライム。

「勁弾、いいです!かっこいい!」

ふん、と鼻で笑うトラヒコであったが、「その勁弾を、せめて数発放っても平気になって欲しいもんだな」と言い残すと、今度は自分がと木刀を手に素振りを始めた。

 ふと気が付くと、ライムの腕から粘膜で覆われた葉が取り払われていた。

「さ、訓練の続きを、どうぞ」

ベンチに腰を下ろしたミツカが、艶かしく脚を組む。


 その後は、リキと組手で汗を流し、「よし、ここまでにしよう」というリキの声と同時に地べたへ倒れ込んだ。訓練場は徐々に賑わってきて、トラヒコは何人もと木刀を交えていたが、物足りない様子で引き上げてきた。

「ライムもトラヒコも、C級試験の合格が十分に見えているな」

リキが大きく頷きながら口にする。

「そういえば、マスターが言っていました。D級まではマスターが認めればなれるけれど、C級はそうはいかないって・・・。試験があるってことですか?」

「そう。C級からは、ギルドごとの基準ではなくて、大陸全体で決められた基準を満たさなければいけないの。だから、C級からは冒険者の数がぐっと減るわ。竜の筆も例外でなく」

ミツカの言葉に、確かにと思う。D級は、ルンポたち中年冒険者をはじめ、多くいる印象だけれど、C級以上の冒険者とギルドで顔を合わせる機会は多くない。本拾いと、冒険譚へ入る間の、休息期間くらいであろうか。

「それは、お前らが訓練場に顔を出さな過ぎるからだ。俺がさっきまでやり合ってた剣士のうち何人かはC級だ。それに、お前らはリキさんやミツカさんのことも、この前のことがあるまで知らなかっただろう」

トラヒコの言葉で、自らを恥じるライム。

「あの赤鬼が出てきた冒険譚、俺たちが自分で完結させるには、C級にならなきゃいけない。だからボサっとしてる暇なんてないんだよ。いつまでも、俺たちのために残しておいてもらえると思うな」

手拭いを顔に乗せたまま呟くトラヒコの表情が分かるようだ。

「あ、そういえば、あの冒険譚。もう赤鬼は出てこないんでしょうか」

ライムの疑問に、リキとミツカが顔を見合わせる。

「冒険譚のなかの魔物たちは、身近に自分たち以上の力を持った冒険者の気配があると、出てこなくなるらしい。そういった意味で、この竜の筆はニマール国で最も安全な冒険譚の保管場所でもあるだろう」

「その研究をしたチームメンバーの1人が、わたしたちの仲間よ。よかったら仲良くしてあげて。とってもいい子だから」


 ミツカがベンチから立ち上がり、手招きをする。ライムたちはそれに従い、訓練場を後にした。

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