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15.鬼か蛇か⑤

 ブロロロロと音を立てて、近くで車が停まった気配がある。そして、「おーい!竜の筆だ!」という男性の声が、草木をかき分けて近づいてくる。おそらく、舗装された道までは車でやってきて、そこからは足でということなのだろう。

「こ、こっちでーす!結構ヤバイ状況です!」

ユウヒが、目の前の赤鬼から顔を逸らさないまま、引きつった表情で叫ぶ。

「よかった!みんな無事か!?」

何やら大きな影が頭上を横切り、地響きを立てて着地した。

「B級冒険者、リキ、参上」

どっしりとした体格の巨漢である。Tシャツを脱ぎ捨てると、赤鬼の正面に立ち、四股を踏む。足が地面を踏みしめるたび、振動が一同の腹に響く。

「あら、1体はもう片付いていて、こっちも随分疲れているみたい。あなたたち、頑張ったのね。偉いわ」

妖艶な美女が現れ、指をしなやかに動かすと、突然地面から生えてきたツタがライムたちを網目状に覆い隠した。

「わたしはミツカ。B級よ」

網目の隙間から、ウインクを投げてよこす。


 体力が戻ったのか、赤鬼が咆哮する。そして、目の前のリキをめがけて腕を振り抜く。しかし。

 ガツン。リキは赤鬼の攻撃を片手で受け止めると、反対方向から振り抜かれた腕も掴んで止める。そのまま、押し比べになった。たった1人で、あの赤鬼と真っ向勝負をしている。それを、自身が出したツタにもたれかかり、涼しい顔でみつめるミツカ。

「せいっ!!」

一声、気合いを入れるとリキが赤鬼の懐に入り込み、腰を掴んで持ち上げる。

「うりゃぁぁぁぁああ!!」

勢いよく地面に叩きつけられる赤鬼。さらに、倒れた赤鬼の顔面に、リキは張り手を食らわせた。轟音が響き、砂煙が舞う。その向こうから、ぴくりとも動かない赤鬼を担ぎ上げ、リキがこちらに戻ってくる。

「いいサンプルじゃない。モッチちゃんが喜びそう」

ミツカがツタに触れると、シャラシャラと音を立てて網目が解けていく。代わりに、2体の赤鬼の死骸に向かってミツカが指を動かすと、今度は地面から、巨大な口のある花のような植物が現れて、赤鬼の死骸を飲み込んだ。


 「君たち、D級なのか!?それにしちゃあ、随分頑張ったじゃないか!うん?君は・・・トラヒコか!訓練場でよく見るな」

気まずそうに、会釈で返すトラヒコ。

 応援要請に応じて駆けつけてくれたのは、B級冒険者の2人だった。リキはしきりに、5人が勇敢であったことを褒め称え、ミツカは赤鬼を飲み込んだ花を撫でて自らに収納すると、5人に「特製ジュース」を配ってくれた。飲むと不思議な甘さで、みるみる体力も魔力も回復していくようだった。

 山道を下り、舗装された道へ出ると、そこにはエンジン音の主が停まっていた。鮮やかな青で、8人程が乗れるサイズの車。そして、車の脇ではワイルドな髭を生やした男性がタバコを吸っていて、「ただいま!」と戻ってくるリキに手を挙げて返した。

「え・・・イケメン・・・」

ユウヒが、頬を染め、前髪を撫でつける。

「ああ、そうだ。あいつはナガレ。冒険者ではないんだが、竜の筆にはよく協力してくれている、自称『運び屋』だ。あいつに車の話をする時は覚悟した方がいいぞ、なにせ、車に熱い男だからな」


 ナガレの運転で、山を下りる。来るときはきっと猛スピードで駆けつけてくれたのだろうけれど、帰りは疲れきった5人のことを考えてくれたのかゆったりとした運転で、ライムたちはいつの間にか微睡んでいた。

「ウボンレイ族の子でしょう?わたしもよくは知らないけれど。この子たち、これから茨の道でしょうね」

「しかし、マスターは信じておられる。素晴らしいじゃないか、若い力と友情は。今回のことのように、何事も乗り越えてくれるさ、きっと」

 車は朝日に照らされて、ライオンタウンへ向かう。

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