0076甘い甘い恋の歌
人、人、人。
国立総合学校から今日、初等院から上等院までのおよそ一万人が卒業した。
長時間の卒業式だったためすでに日は傾いており、陽が地平線から顔を覗かせようとしている。灯境と呼ばれる、二つの陽日がほぼ180度に位置するというこの季節特有の自然現象で、入学の季節までは晴れていれば毎日見ることができる。
左右から射し込む入日と出陽が世界を赤く染めあげ、仄暗い空と淡く光る地が対照的な雰囲気を醸しだす。
敷地内の一画、緑の芝が黄色く光る広場に一人の制服を着た少女が凛と立っていた。
身長は120cm程と小さく、金髪は地面に付くかという位に長い。その表情は、緊張と悲しみと喜びが少しずつ混ざりあったように見える。
風が吹き、髪がなびく。
どこからか運ばれてきた桜の花びらが辺りを舞い踊り、芳しい匂いを運んできた。
「――――」
少女はゆっくりと息を吸い、その倍の時間をかけて更にゆっくりと吐きだす。
そして目を閉じ、耳を澄ます。
鳥のさえずりや人々の声に溶け込んだある独特の音を感じ、その音に併せてそっと息を吸い、吐き出した。
少女が何度か同じ事を繰り返す内に、吐息は音になり詩になり、そして心を震わせた。
甘い、甘い恋の歌。
詩が聴こえない、否、音すら聴こえない筈だが、その吐息は聴いた者にそんな印象を与え。
昔の初恋、今の興奮、そして未来の幸福。
そんな様々なことを思い出していた。
日が沈み切り、陽だけが世界を照らし始める。
聴こえなくなった音に気付いた人は、しかし特に気にすることも無かった。
少女はそっと微笑み、おまけとばかりに息を吹き出した。
それは風となり、何処までも翔んでいった。




