0007愛想笑いばかり上手くなってどうするの?
「それじゃあ、留守番お願いね」
豪華なドレス(赤)を着た相手Aが言う。
「勝手に抜け出したら、どうなるかは分かってるわよね?」
豪華なドレス(黄)を着た相手Bが凄みをきかせる。
豪華なドレス(水)を着た相手Cもそれに同調していた。
「にゃはは」
それに対して地味なドレス(灰)を着た私は口を半開きにして苦笑する。しかし、本来ならば聞こえるか聞こえないかのこの苦笑も、今の状況では大音量にならざるを得ない。
「変に笑ってないで、スマイルっ!」
にっ、と笑うと、Bは満足いったのか一つ頷いた。
「そうそう。それでいいのよ。最初からそうしていなさいな」
Cが長い鬘を揺らしながらそう言う。
「それじゃあ、お客さんが来たら、ちゃんと接待するのよ。いいわね」
Aが傲慢にそう言うと、さっさと歩いて行った。他のBとCも続く。
私はここで溜め息を一つ吐いた。
「愛想笑いばかり上手くなってどうするの?」
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コンコン
そんな音が聞こえてきたのは、大分経ってからだ。
遅い。
ついついそう言いそうになるが我慢する。
「いらっしゃいま――」
私の言葉は途中で止まる。
目の前にいた人物は。
「おおおおおお、おおおじ様?!」
「いや、私は君の大おじ様ではない、だろうね」
「しし、失礼しました、王子様。ど、どうぞこちらへ」
そういって、その地味な服装をした王子様を招き入れながら深呼吸をする。
精一杯の落ち着いた声と、愛想笑いを顔に張り付けて。
「どうぞ、お座りください」
そう言うと、王子様はこう言った。
「笑顔が素敵だね」
私はその台本にない台詞を聞いて、愛想笑いも役に立つんだ、と思った。