0006相思草
喫煙はとっても不健康です。
ついつい思い浮かべてしまうために相思草と呼ばれたり、あるいは姿形が似ていたために莨と書かれたりする植物がある。つまりタバコのことだ。
つまり、タバコは俺たち恋人同士にとっては、縁起のいい物なんだぜ。
「分かったか?」
「知らないわよそんなこと!」
――スパコーン
本当にそんな音が出るとは知らなかった。
朦朧とする意識の中、俺は嫌悪を露わにした彼女の顔を微笑んで見ていた。
「キモ」
最後に聞こえた言葉は、そんな言葉だった。
*******
目を開けると、馴染みの天井が見えた。
「もう起きたの?」
溜め息が聞こえてきそうな、耳に馴染んだ声が聞こえてきた。
「ああ、起きたぞ」
そう言って俺は上半身を起こす。
6畳ほどの小さい自分の部屋にある唯一の椅子。そこに彼女が座っている。
視線を動かすと、火の点けられていないタバコの山が部屋の隅にできていた。隠していたのにな。
「おじゃましまーっす」
「お邪魔、します」
何で寝ていたのかを考えていると、この狭い部屋に二人が入ってきた。
一人は背が高いうえに幅も広いむさ苦しい男。もう一人は小柄でメガネをかけた女。
確か名前は。
「やっと来たわね。遅いわよ、二人とも。こいつ、もう起きちゃった」
椅子に座っている彼女が二人に向かって言う。
「そっか。それは残念だ」
「ちょっと二人とも、止めた方がいいよ」
むさ苦しい男が悔しそうな顔をして、その後ろに隠れるようにいる小柄な女は小さな声で物騒なことを言う二人を諌める。
「おまえら、何をしようとしていた?」
聞いたが、彼女もむさ苦しい男も笑顔ではぐらかす。
小柄な女に目を向けると、おずおずと話しだした。
いつもの光景である、と。