0052トラップを仕掛けて ほんの些細な戯れを
Ⅰ
朝の教室。
いつもならば騒がしいはずのそこが、何故か静かだった。
担任の先生はその事に違和感を感じ、扉の前で立ち止まる。
数秒の逡巡の後、扉を開けた。それと同時に落ちていく黒板消し。
児童は、ホッとしたような、残念そうな溜め息を落とした。
Ⅱ
黒板消しを拾い上げようと膝を折る担任の先生。
黒板消しに手を掛けた所で、細い紐が繋がっている事に気付いた。
そっと持ち上げて、様子を見る。何も起きない。
持ったまま一歩教室に足を踏み入れると、上からの気配を感じて横に転がった。
Ⅲ
盥。
直径1M程のステンレス製。多分、MADE IN *****だ。
どこに設置されていたかは分からないが、落下してきた。
しかも逆さまになっていて、中から何かが出てきている。
指先で触った担任の先生は、それが油かワックスの様だと思った。
Ⅳ
油は床に広がっていく。担任の先生は教壇に急いで登った。
と同時に、手に持っていた黒板消しに張力が働いた。
気付いた時には上から物が落ちてきている。
担任の先生は急いで姿勢を低くして、側転の要領で横に転がった。
Ⅴ
転がる先に画鋲が敷き詰められている。
上から落ちてきたのは、バケツとその中に入った小麦粉。
左右を画鋲と小麦粉に挟まれ、担任の先生は現状を確認する。
バケツが落ちる寸前、担任の先生は跳び上がった。
Ⅵ
着地点は教卓の上。
何も無い平なそこに、担任の先生は着地する。
暫しの沈黙。バケツが転がる音だけが教室に響く。
カチッ
何かが外れる音がした。
Ⅶ
教卓の上には、何も獲物を捕まえる事の出来なかった虫取り網。
盥の上には、逃げおおせた担任の先生。滑らない様にバランスを取っている。
今日も授業前の戯れは担任の先生の勝利だった。
授業の後、児童達は後片付けをやった。




