0005聖霊降臨祭
いってー。何だよ。
そう思って上を向こうとしたが、それは無理だと分かっていた。
今上を向いたら、正面で行われていることが無に帰す。
そうなったら、俺は殺される。
それは、絶対ヤダ。
正面には透明な、目に見えないはずだがそこに有ると分かるマナが、大量に集まって球体を形成している。
他の五人の術師と共に形成されたこれは、今日の祭り『聖霊降臨祭』のメインイベントだ。
遥か昔、この街にやってきたという大魔術師が、当時いたという魔族に対抗するために精霊降臨の儀式を行ったという。
その成果で魔族はいなくなり、世界は次第に平穏に包まれていった。
彼、彼女かもしれないが、に敬意を表して、この街では大魔術師が精霊降臨をしたとされる日に『精霊降臨祭』を行うようになった、と言われている。精霊は、いつの間にか宗教と結びついて聖霊降臨と混同され、『聖霊降臨祭』と書かれるようになったという。
そしてその精霊降臨の儀式を模したのがこのメインイベント。
精霊とはマナの集合体に意思が宿ったものと考えられているため、こうやってマナを集めれば精霊が出来ると考えられている。実際に行われた精霊降臨の儀式は記録にも記憶にも残っていないし、今までに精霊が出てきた例がないため、これで本当に精霊が降臨するのか分かっていないので、単なるマナの無駄遣いだと俺は思う。
マナ濃度が一段と濃くなったのか、蜃気楼か何かのように空間が歪んで見え始めた。
臨界点?
突然そんな言葉が浮かんできて、瞬間的に力を弱めた、その時だった。
マナの球体に映る世界が歪み切り、色が変わり、そして一瞬にして元の空間に戻った。
球体に弾かれた俺達六人は、円形のステージの端に座り込み、球体のあった場所を見る。。
そしてその真中に居たのは。
「ほわ〜。寝る」
妖精、という生物を知っているだろうか。
身長の小さい人に羽を付ければ妖精の出来上がりだが、真中に居たのはそんな妖精だった。全身が白から緑の色だけで成り立っていて、どこかその姿は霞んでいる。
妖精が精霊、とでも言うのか。
床に降り、羽を畳んで堂々と寝るその姿に、長い間俺も含めた大勢の人は見入っていた。