0003未来を切り開く
「未×2+8っていうことね」
そう言われても何のことかは分からなかった。
「どういう意味なの?」
「未来を切り開くを実践してみたの」
それ以上説明する気が無いみたいで、彼女はいつもの頬笑みを顔に貼りつかせている。
「みらいをきりひらく。みかけるにたすはち。アナグラムかな?」
「字数は合ってるけど、違うと思うよ」
「だよね」
間違っているとは分かっていた。言ってみただけ。
「未来を切り開く。未来を、ね。分解すればいい訳か」
「そうそう。それで合ってるよ」
「なるほどね〜って、そうじゃなくてさ。未来を切り開くにはどうすればいいのか、って聞いたのよ」
彼女は、うーんと言って目を閉じる。
もう一度うーんと言って目を開け。
もう一度うーんと言って目を閉じ。
それを何度か繰り返して、最終的にこう言った。
「日本語の意味、分かってる?」
どういういみじゃ〜!
っと叫んでしまいそうになる。ああ、だめだ。私のキャラクターが崩れるよ〜。
深呼吸をして、落ち着いて、答える。
「分かってます。生粋の日本人ですから」
「そう。なら、矛盾していることも、分かってる?」
「矛盾?」
未来を切り開く、未来を切り開く。
えっと、使われている単語は、未来と切り開くの二つ。
「矛盾、というか、意味の重複、かな?」
そう彼女は言い直した。
未来。切り開く。
つまり。
「未来は、勝手に切り開かれるもので、切り開くことは出来ない、ということ?」
「そうそう。そうよ」
「そんなの納得できないよ」
彼女はうーんと呟くと、こう言った。
「私は未来は自然と作られる物だと思うから、切り開き方なんて知らないの。自分で考えた方が早いかもしれないよ」
自分で考えられなかったから聞いたのに。
イジワル。
「まあでも」
「まあでも?」
何か別の方法があるのか、と期待をよせてみた。
「そもそも未来なんて想像の産物だからね」
よせた私がバカだった。