0018涙色の空
雲がうっすらと空を覆い、その下に満開の桜が一本だけ立っている。
3月9日。今日は卒業式だ。今は卒業証書の授与も終わり、後は学校と別れるだけである。
あちこちから聞こえてくる喜びや悲しみの声。そんな声を聞きながら、僕は只、桜を見上げていた。
太陽の下にあるような鮮やかさや水々しさ、夜の神秘的な様などは無く、綺麗とは言い難い。
そのせいだろうか。ここには僕しかいなかった。
鈍い、灰色と桃色を混ぜたような色。僕はこの色の桜が好きだ。
まるで、そう。桜の木も一緒になって悲しんでくれているかのようで。
――ポツ
雨?
そう思って花の狭間から覗く空を見上げたが、天気は依然として晴れと曇りの中間を保っている。
では何だろうとよくよく見ると、桜に水滴が付いていた。
まさか桜が泣くわけは無い。多分結露の名残だろう。
だが、僕は何故だか哀しくなった。桜が泣かない事に、だろうか。それとも桜が泣けない事に、だろうか。
どちらにしても、僕は意思の無い桜に泣いてほしかったのだろう。
特に意識してはいなかったが、僕は溜め息を吐いていた。
溜め息一つは幸せ一つを逃がすと言うが、では一体その幸せはどこに行くのだろうか。
僕は空を見上げた。
涙色の空。
最近読んだ小説のタイトルだ。
涙も空も無色透明なのだから、と思った事もあった。
だけど。
この空が、多分、涙色の空なんだろう。