0016Rabbi
「どうぞ」
扉を叩く音に目覚めさせられ、不機嫌そうな老人がそう言った。
「ラビ殿にお話があって参りました」
入ってきた青年はそう言ったが、ラビと呼ばれた老人は一層不機嫌になった。
「他にどんな用事があるのじゃ。儂を殺すか?」
「いえいえ、滅相もございません」
「ふん。まあよい。どんな用事じゃ」
「はい。これを」
青年は懐から一通の手紙を差し出した。
それを受け取ったラビは一瞬で目を通すと、一つ溜め息を吐いた。
「儂の弟子を頼れと申すに」
「ですが王はラビ殿を、と」
「仕方がないかの。久し振りにあやつの顔でも見るとするか」
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「ラビ、久し振りだな」
「王もご機嫌麗しゅう」
「ラビ、かしこまらんでよい。いつもの様にせい」
「ならば甘える事に致すぞ」
王とラビの間には、一つの将棋盤が置いてある。
「今日は将棋で儂と勝負したい、と申しておったの」
「ラビ、その通りよ。余と手合わせを願えぬか」
「ふむ。儂は構わんが、そちは構わぬのか」
「なに。高が将棋。いかにラビといえど、そう容易くは勝たれまい」
ラビは一つ唸った。
「そうかもしれんが、そうで無いかもしれんの。それでもよいのか」
「ラビ、構わぬと申しておろう」
「そうか。儂は勝負をしようとしておらんそちとは、手合わせなど出来ん」
そう言って、ラビは城を出ていった。
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翌日。
ラビは昨日の様に王と対面している。
「二日も連続で儂を城に登らせるとは、そちは何を考えておるのじゃ」
「ラビ、今日は真剣に余と勝負せい。余はラビに勝つつもりよ」
ふむ、と考え込むラビ。
「では、儂が勝ったらどうするのじゃ」
「どうする、とは?」
「儂はそちが勝ったら、手持ちの書物を全てそちにやろうではないか」
「なんと」
王は考え込んだが、ラビの欲しそうな物の見当がつかない。
「ラビ、ラビは何が欲しい」
「この国を」
部屋の隅に控えていた宰相が慌てて立ち上がるも、王はそれを目で制した。
「ラビ、そこのラビの弟子とまず手合わせしようではないか。余は二回、ラビは一回の勝負。構わんな」
「うむ」
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「ラビ、余はラビの弟子に勝っただけで満足よ」
「賭けは」
「そんなもの、忘れたわ」
そう言って、二人は笑った。