0012わたしのたいせつなひと。
誰かが話しかけてくる。
俺の仲間だろうか。目を閉じているのでよく分からない。
頬を叩かれ、やっとの思いで目を開けた。
そこは赤茶けた広々とした部屋だ。俺は、何でここに?
首を回して、今の状況を確認する。
白魔法師の彼女は隅で祈っていた。魔武道使いの彼は唯一の出入口で仁王立ちしている。弓師の彼は嫌悪の表情で俺の後ろを睨んでいた。
後ろを振り返る。
そこには、山のような魔物の死骸。そして中央に鎮座した赤茶けた椅子の上には、胸に矢の刺さった少女の死体があった。
「……あの少女は、だれ?」
「それはこっちが聞きたいわよ!」
ぼそっと呟いた言葉に過剰に反応したのは、黒魔法師の彼女だった。俺の目の前にしゃがみ込んでいる。
――わたしのたいせつなひと。
俺は記憶を探り、そして思い出した。
とある村で出会った少女。そしてさっきまで『魔王』と名乗っていた少女。
弓師が会話を遮るように弓を放ち、少女を死に至らしめた。
「わたしの……」
黒魔法師の彼女が、目をいっぱいに見開いて後ずさる。
俺は『勇者』だ。今まで『魔王』を倒すために努力をしてきた。
だったら『魔王』は?
――わたしのたいせつなひと。
最期に見せた、まるで我が子を見るような眼を思い出す。
『魔王』は、いや少女は倒されるために、俺に関わったのだろうか。
少女の気持ちを知りたい。
知りたい。
そのためだったら、俺は『魔王』になってもいいよ。
――わたしのたいせつなひと。