0011そんな風に笑うとよく似てるわ あの人に。
――そんな風に笑うとよく似てるわ あの人に。
突如として言われた言葉に、部屋の空気が穏やかなものに変わっていく。それでも立場上、ピリピリせざるを得ないが、随分とマシになった。
赤茶けた部屋。壁や床、天井など一面、まるで洞窟のようにごつごつしているが、お城の中でも一番偉い人のいる部屋だ。
目の前にいる人物は、黒い髪と瞳を持った、一見人のように見える。その呼び名は『魔王』だ。
その周りにいたはずの魔物は、既に『勇者』こと俺の仲間によってことごとく倒されていた。
剣士である俺に、弓師、黒魔法師、白魔法師、それと魔武術使いの五人でここまでやってきた。そして今、ついに最終目標を達成しようとしている。
ちなみに、俺は『魔王』の前で笑った覚えはない。以前に一度、とある村で仲良くなった少女に――
俺の目は、驚愕によって見開かれた。
その様子を見た仲間達は訝しんだが、そんな事には構っていられない。
「君は、もしかして――」
続けて少女の名前を言おうとするが、『魔王』はそれを左手を振ることで遮った。
一気に部屋のマナ濃度が増加し、俺達五人は発生した風によってことごとく吹き飛ばされる。
「気付かなかったのか。残念だ」
そう言って溜め息を吐いた『魔王』は、少女とは似ても似つかなかった。ただこの世界では珍しい、黒髪と黒瞳を持つこと、そしてその体付きだけが一緒だった。
村であった少女は自分の容姿を憂いていて、俺はそれを励まして。
ただそれだけの関係だ。
そのはずだと思ったのに。
「だがまあ、気付けなくても当然か。あの人もそうだったが――」
「あの人って、誰だ!」
岩に腰や足が当たって痛いが、この程度は余裕だ。
俺はずっと前から、少女と初めて会った時から、聞きたかったことを聞いた。
それを聞いた『魔王』は目を細める。その姿はまるで、我が子を見るような――
「…うっ」
弓師が嫌悪の目付きで『魔王』を仕留めていた。