0010一番を目指してるの。だからそれ以外はダメよ。
ナンバーワンよりオンリーワン。
いつだったか、そんな歌詞の歌が流行ったことがある。
でもオンリーワンが誰でもなれる、いや違う。誰でもなっているのならば、オンリーワンになる意義というものがなくなる。
当然のことだ。誰もがオンリーワンではなくてナンバーワンを目指す。いや、正確には違うか。オンリーワンの中のナンバーワンを目指すだろう。
だが、彼女はそんな他愛もない事を目指してはいなかった。
それは彼女の容姿、成績、趣味、言動、友好関係などを見れば明らかで、そしてさっきの発言を聞けばそれは確信するだろう。
――私、一番を目指してるの。だからそれ以外はダメよ。
何週か前に行われた模擬試験。その結果を見た彼女の友達の質問に対する答えだ。
その結果は、というと、全教科満点。
一年生最初の模試で緊張していた生徒も多かったと思うのだが、彼女は当然といった表情でその成績表を眺め、そして乱暴気味に鞄にしまおうとしたところで友達に見つかったのだ。
定期試験で常に学年5位前後を維持していた僕ですら、上位10%に入るか入らないかの成績なのに。
ちらと彼女を見ると、短い髪を八つ当たり気味に掻き毟っていた。それだけの行為なのに、何ともシュールに見える。まあ、慣れてしまえばそんなことはない。
鞄を取り、友達から紙をひったくって鞄に詰める。そして誰にも視線を合わせることなく教室を出ていった。
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数年後。
彼女の名前を知らないものはいないと言うほどに、彼女は有名になった。
「失礼します」
首都の中心に豪邸を構える彼女。
僕はそこを訪れた。
「入っていいわよ」
久し振りに聞いた彼女の声に、僕は自分の考えが間違っていない可能性が高まったと感じた。
扉を開けで、中に入る。
そこにはテレビなどで見る彼女しか知らない人間は卒倒するだろう光景が広がっていた。
高校の時一緒だった僕はそうではなかったが。
「お久し振りです」
「久し振りね」
彼女はいつかと変わらない声で、僕にそう言った。
「君は、僕の一番だよ。……多分」
突然言われた言葉に彼女は珍しく動揺したようだったが、ニカッと笑うとこう言い返してきた。
「多分ってなにさ。多分って。でも、初めてだよ。そんなこと言われたの。ありがとな」