0001相容れない存在
私と彼は、世に言う幼馴染だ。
あくまで世に言う。実際の所、私は、多分彼もだが、幼馴染とは思っていない。腐れ縁のほうがしっくりくる。
幼馴染、と言われると、彼も私も、苦い顔をする。
そもそも、家が近い訳でも同じ学校に通っている訳でも、ましてや生活領域が近い訳でもなかった。ただ、運命の悪戯だったのだ。
「ああ、おまえか」
彼は私の事を、おまえ、と呼ぶ。
「何でまたいるのよ」
私は彼の事を呼んだことは無い。
いつものジーンズと変な絵がプリントされたTシャツ。その上から革製の高そうなジャンパー。髪の毛は茶色で、耳にピアスでもしていそうな風貌だ。
対する私は、これまたいつもの地味な黒いパンツとベージュのシャツ、その上から茶色のカーディガンを羽織っている。髪の毛は黒。腰の辺りまで伸ばしているのは、某ドラマの影響だ。
「そっちこそ」
いつもの場所、いつもの格好、そしていつもの会話。
いつからこのルーチンを繰り返してきたのだろうか。
彼は体重を預けていた壁から離れ、そして私から離れるように歩いていく。
「なんでそっちに行くの」
聞くと、彼は立ち止って振り向かずに答える。
「用があるからに決まってるだろ」
「私もそっちなんだけど」
「そうか」
会話はそれで終わる。
なぜか彼は私が隣まで来るのを待ってから、私の横に並んで歩き始める。
彼の長い脚と私の短い脚。歩調が合うはずが無いのに。
――なんでだろう。
何度そう思ったことか。
答えは分かっているはずなのに、なぜかそれを思い浮かべることができない。
私をこうやって困らせる彼は、嫌いだ。
「じゃあな」
彼はしばらくするとそうやって私から離れていく。
やっぱり彼は、嫌いだ。