素描6 物語 迷宮をめぐる話1
いまだ踏破されぬラビリンス、この田舎町には大きな迷宮がある。
私の名はソル、魂という意味だ。
昨日この町にやってきた。
私はその大迷宮に挑もうとやってきた剣士である。
剣士と言っても、戦争に雑兵として参加しただけだ。
たかが知れた実力であるが、兵士として訓練を受け、生き残った。
***
迷宮に入る前に祈りをささげておくべきだ。昨日世話になった宿屋の主人に諭され神殿へやってきた。花を買い、祭壇に捧げると、私は祈った。
私の目的は非業の死を遂げた妻とわが子の復活だ。
迷宮の果てには、ランデールの箱と呼ばれる願いをかなえる箱が現れるという。
たとえ自分が死の危険をおかしてもかなえなければならない願いである。
***
螺旋階段を上って教会の尖塔にのぼる。
まぶしい太陽の下に、北には遥に雪を抱く険しい山、南には彼方にかすかに海が見える。
目線を直近に落とすと、町を取り囲む城壁の外にブドウ畑、牧草地があり、その外側に大麦やライ麦の畑地が見えた。
向こうに池、水田が少しあり、そこから先は森が広がっている。
城壁には一か所だけ、門があって、堀があり、そこから左右に街道が通っている。
その街道を北に向かったところに、暗く小さな穴がぽっかりとあいているのが見える。
穴のまわりは石畳になっていってそこをまた高い城壁が取り囲む、城壁には3階建ての砦がついている。
あれが迷宮か。
さあ、とりあえずは迷宮の前まで行ってみよう。
階段を降りて、教会を出る。そのまま大通りを進む。
むかって右側に、町の庁舎があり、左側に病院と初級学校がある。
少し歩くと、あけ放たれた木戸がみえてくる。
先ほど上から見た、門である。
駆け足で行く、街道を左に曲がり、城壁にそって、上っていくと、町の城壁につながってひときわ高く、厚い石造りの城壁がそびえている。
こちらの門には鉄板の貼り付けた。いかめしい作りになっている。
城壁と砦は表面をつるつるに磨いた硬く白い石でできている。
砦の中に入る。
椅子が置かれ、初老の男がいた。
「迷宮に入りたいのだ」
「ああ、挑戦者か、入宮税を払いたまえ。この帳面に名前を記すのも忘れずにな」
私は懐から革袋を取り出し、いくばくかの金を払う。
「食事や入用のものはあちらで扱っているぞ」男はそう言って示した。
「いや準備はしてきた」
「そうか、ならば君に幸運と神のご加護を」
「ありがとう」
私は礼を述べると、砦を出て、穴にむかい真っ暗な階段を駆け下りていった。
***
そして、二日が過ぎた。
「そういや、あの人ぉ、ペンダントを落とした人ぉ、戻ってきましたぁ?」黒い革の眼帯をした巫女服の少女が初老の男性に尋ねた。
少女は悲しげだった。外見がはかなげで、声がそう聞こえるからかもしれなかった。
「ああ、おとといのか、なんという名だったかな」
「あの人、無事でしょうか」
「さあね、毎日、初めて挑戦する連中だって百人はいるんだ。そのほとんどが気の毒なことに永久に帰ってこないからね」
「あの人は、決意を持っていました。私にはわかります」
「そうか…、なら帰ってくることを祈ろう。そうすることしかできまい」
***
この迷宮はラシミール迷宮という名の迷宮である。そして、この迷宮は定まらない、挑む者の願望をかなえる迷宮なのだ。




