素描2 エッセイ 坂道の途中で
東京は意外に坂道が多い。坂道で思いついたことを書いてみよう。関東平野の真ん中に位置しているのだが、海から上がると平地から台地になり、起伏がある。そんなわけで、東京の街を歩くと、あちこちで坂道に出くわす。
起伏を知るには谷を見るとわかる。渋谷なんかはそのいい例だ。御茶ノ水あたりは人工の渓谷になっていて、水を通すにはこれだけ掘削する必要もあったのかと思ったりもする。
さて、坂道の話に、戻ると、あちこちに富士見坂という坂がこれは坂の頂上から富士山が見えたということなのだろう、こうした坂が24ヵ所以上もあるという。
だいぶ前、自分がよく通った坂がある。大井町から鮫洲の方に行ったところの坂である。くらやみ坂とか仙台坂という名前がついている。かつては海から見えたであろうその坂の途中には大きなタブノキがある。この坂を鮫洲の方から上ってくると、その木の大きな姿に驚いたものだ。なぜ仙台坂というのか、かつてここには仙台藩の下屋敷があったので、仙台坂というのだ。
面白いことに、麻布にも仙台坂がある。こちらの仙台坂には幽霊の話がある。なぜ坂に幽霊の話があるのか、おそらくそれは坂が異界への入口であり境界だからだと思う。異界への入り口は辻や橋、峠もそれにあたる。この世とあの世をつなぐ場所だからだ。そこで怪異が発生するのは、ごく自然な発想なのである。
境界の物語、この人間の心意は時間にもつながる、黄昏時は逢魔が時、「たそかれ」はあなたはだれですか?の意味だ。一日が闇夜へと消えていくとき、やはり異界の口は開かれる。
そこにはかならず物語が生まれてくる。あなたが橋や坂に来た時、そこに伝わっている特別な物語を探してみよう。かならず、様々な物語を見つけることが出来ると思う。
坂道を転がる。上ることに難儀する、坂は厄介な場所だが、そこにある記憶や物語を探ってみると、面白い発見があるかもしれない。