第一幕 異変の予兆
「分かるか、メイジ」
「あっ、はい」
アキト先生に尋ねられて、私は思わず叫んだ。
ここは、王都インヴェルグ。上流階級の貴族から最底辺家庭まで、いろいろな家庭事情を持つ家がある街だ。
今私がいるのは、インヴェルグにある王立魔術研修アカデミーの大学部。魔術という教科を専門にしている学園で、周囲の人たちからは「まじゅけん」という愛称で呼ばれている。大学部は十八歳からの入学で、応用的魔術を主に学習する。
別に大学部には任意で行くかいかないかが決められる。ではなぜ私が行ったのか。
アキト・イーリス先生がいるからである。
アキト先生は美男紳士として有名で、多くの女子がここへ行くことを望む。正答率わずか三%の入試問題に。
もちろん入試だから今まで習ったことである。しかしむずいのは応用だからである。
さてそんな王立魔術研修アカデミーの大学部一年、今日の授業は「薬物調整の裏技探し」がテーマである。
私は、今日がアキト先生の担当講師の日なので、少々うかれていた。
一緒に付き合って、結婚して、二人はいつかは子供を授かり、愛の大冒険を繰り返すーーなんていう都合の良い妄想か。現実へ戻ろう。
「わかりません。もう一回言ってください」
「じゃあ言おう。気体宝炎がある。魔薬テスラを作る際、十ml宝炎を多く瓶に入れてしまった。この宝炎を取り出しなさいっと」
そう言ってから、しれっとお盆に乗せた宝炎と水を、さりげなく私の目の前に置いてきた。宝炎は、先生が特別な魔力を込めた袋に飽和する量まで入れて、密封されてあった。
まずはこれを取り出さなければ。問題文にあるのと同じような状況を作ってしまわなければならない。
私は、右手をフッと軽く振って、袋の周りに軽く風を起こしてみせた。そして、手を下ろす。すると、起こっていた風が、袋を破いていた。
そして、瓶に詰める。
触りづらい。気体だから。ただ、「これは絶対宝炎だ」というようなものは、感覚でわかる。
仄かに熱い。これが宝炎である。
ーーこれを瓶へ。
拳を握りしめる。熱い。花火の燃え殻を掴んだみたいだ。
集中する。しかし、耳は働いている。微かに、周りからくすくすという笑い声が聞こえる。
ーーえ?
続いて、ざわざわという声も。
ーーなになに。
私が振り返る。すると、アキト先生が駆け出していた。
「みんな、今日は終わりだ」