第三章『鏢局荒らし(二)』
翌朝、拓飛と凰華は食堂で朝飯を取っていた。
「あの、拓飛。昨夜はごめんね。怒ってる?」
「別に怒ってねえよ。おめえのことだから、すぐに様子を見に来るのは分かってた」
口ではそう言うものの、拓飛は目を合わそうとはしない。
「だったら先に教えてくれてたら、邪魔しなかったのに」
「あのな、今から内功の修錬をしますなんて言ったら、隙だらけって教えてるようなモンじゃねーか」
「それはそうだけど……あっ、ところでこれからどうするの?」
あからさまに凰華は話をすり替えたが、拓飛は敢えて突っ込まなかった。
「どうって、今までどおりだな。虎っぽい妖怪の噂を聞いたら、見つけ出してこの腕の治し方を吐かす」
「それじゃ、効率が悪くない? あたしにいい考えがあるんだけど」
「どんな考えだよ」
「フッフッフッ、『四大皇下門派』って知ってるでしょ?」
そう言った凰華の顔は何故か得意げである。
「よんだい……? 知らねえな」
「え? 知らないの? 数ある皇下門派の中でも特に優れていると皇帝に認められた四つの門派のことよ。神州の中央(黄州)に皇帝の治める都『黄京』があるでしょ? 東西南北四方の守護は四大皇下門派がそれぞれ任されているのよ」
「ふーん、そうなのか。タダで人助けする奴らなんか興味ねえからな。で?」
「うん、今あたしたちがいる北方(玄州)は『玄武派』が、南方(紅州)は『朱雀派』が、東方(蒼州)は『青龍派』が、そして西方(白州)は『白虎派』が守護しているらしいわ」
「白虎派?」
「そう。詳しくは知らないけど、西方の崑崙山脈に白虎派の拠点があるらしいの。白虎って言うくらいだから、拓飛の腕の治し方も知ってるかも!」
「なるほどねえ、確かに俺の腕も白え虎っぽくなるからな。けどよ、そいつら妖怪退治の専門集団なんだろ? この腕を見たら問答無用で襲いかかって来るんじゃねえのか?」
「……あ、そうかも。でも、きっと事情を話せば大丈夫よ!」
その根拠はどこにあるのかと拓飛は思ったが、
「ま、いいけどな。襲いかかって来たらブチのめせばいいだけの話だ。居場所が分かってるなら、妖怪を探すより楽そうだな。よし! そうと決まりゃ路銀がいるな」
「路銀って、どうするの? 賭け事や強盗はダメよ!」
「おめえ、俺を何だと思ってんだコラ。働いて稼ぐに決まってんだろ!」
およそ拓飛の口から働くという言葉が出るとは思わなかった凰華は、我が耳を疑った。その間に拓飛は給仕を捕まえて何やら訊いている。
「おし、行くぞ」
戻って来るなり拓飛は言った。どこに行くのか尋ねても拓飛は笑うだけで答えない。仕方なく凰華はついて行くことにした。
初めて来た町のはずだが、拓飛はさほど迷うこと無く、どんどん道を進んで行く。先程、給仕に訊いていたのは目的地の場所だったのだろうか。
ほどなくして綺麗に石畳が並べられた通りに入り、角を曲がると大きな邸宅が見えた。
「おっ、ここだ、ここ!」
邸宅の大門の脇には大きな旗が差されており、銀色の糸で、牙を向いた狼が刺繍されていた。扁額には『銀狼鏢局』の文字が大きく見える。
「ここって、鏢局?」
「おう、入るぞ」
鏢局とは、依頼人から預かった金品などを安全に目的地まで運ぶことを生業とした運送警備業者である。金品の護送中にはそれを狙う盗賊なども出没したので、『鏢師』と呼ばれる腕っぷしの強い者が用心棒として多く雇われていた。
拓飛が鏢局に入ると、こちらの番頭は一目見るなり、
「言っとくがウチは安い仕事は請けねえぞ?」
と、横柄に応対する。
凰華は鏢局は利用したことは無いが、鏢局を使うような客はきっと大金持ちか、大店の関係者と言ったところだろうと分かっていた。突然現れた町の不良らしき風貌の青年に対して、このような対応になるのも無理はないだろう。他人に舐められることが何よりも嫌いな拓飛だったが、珍しくニコニコしながら質問した。
「俺は客じゃねえよ。白州に向かう仕事はあるか? 西方面ならどこの街でもいい」
「客じゃねえだと? フザけやがって。兄さん方、仕事だぜ!」
番頭が両手を数回叩くと、店の奥から屈強そうな大男が数名なだれ込んで来た。拓飛の狙いが分かりかけてきた凰華だったが、止める間もなく大男たちは拓飛に叩きのめされ気絶した。
呆然とする番頭に拓飛は悪い笑顔で言い放つ。
「おっさん、新しい鏢師を雇う気はねえか?」




