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【完結】暴虎馮河伝 〜続編あり〜  作者: 知己


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第十一章『桃源郷(五)』

 凰華オウカは懐から白虎牌を取り出すと、西王母セイホウボに差し出した。

 

「これは……」

「……泉安鎮せんあんちんで見つけた物です。お返しします」

 

 西王母は苦い表情で牌を受け取ると、しばし黙った後、ようやく口を開いた。

 

「……慈功ジコウ心戒シンカイ、みな死んだのか……?」

「……はい……」

 

 凰華は泉安鎮での出来事を西王母に話して聞かせた。

 

 

「————そうか、そなたたちには手間を取らせたのう。泉安鎮の住人も守れず口惜しい限りじゃ。そなたたちだけでも無事でなによりじゃった」

 

 西王母は潤んだ瞳で凰華を見つめると、その身体を引き寄せ優しく抱きしめた。母の温もりを知らない凰華は思わず目頭が熱くなった。西王母は凰華の頭を撫でながら話を続ける。

 

「言い訳にしかならぬが近頃、以前より強力な妖怪が増えておってな。仙士せんしを派遣しようにも人員が足りておらぬのじゃ。かと言うて新しく弟子を仕込むのも時が掛かる」

 

 この言葉に凰華は合点がいった。泉安鎮でいくら待っても応援の仙士が来なかったのは、人手が足りなかったからなのだと。

 

「今は他の皇下門派こうかもんぱといがみあっておる場合ではないのじゃがな……」

「……西王母さま……」

 

 その時、部屋の外から従者の者と思われる声が聞こえてきた。

 

「西王母さま、青龍派の方々がお見えでございます」

「うむ、通せ」

 

 程なくして、青い外套を纏った男女五人が姿を現した。先頭の男は拓飛タクヒの腕を斬った黄龍悟コウリュウゴである。

 

 龍悟は凰華の姿を認めると足を止めた。

 

「君は、さっきの……」

 

 凰華はまだ西王母に訊きたい事があったのだが、この龍悟という青年が拓飛を殺そうとした事もあって、居たたまれず辞去を告げた。

 

「西王母さま、あたしはこれで……」

「構わぬ。そなたもここで話を聞いておれ」

 

 他の門派同士の話など、あまり耳に入れない方が良いのだが、西王母にこう言われれば出て行く訳にもいかない。凰華は仕方なく西王母の傍へ退がった。

 

 龍悟はまだ凰華の姿を眼で追っていたが、気を取り直して西王母にひざまずき拱手した。

 

「西王母さま、先ほどは失礼致しました。改めまして、青龍派第七世代の弟子、黄龍悟にございます」

「東の果てから、はるばるよう足を運んでくれた。時に貴派の掌門、黄どのは息災かえ?」

「は。師父は西王母さまのご長寿をお喜び申し上げると……」

 

 両者は発する言葉こそ慇懃だったが、その言葉の裏にはいくつもとげが隠されていた。

 

「……左様か。しかし今回は、貴派の第七世代筆頭のリュウどのが来られず残念な事じゃ。我が派の蘇熊将ソユウショウも落胆しておった」

「柳師兄も残念がっておりましたが、いずれこの埋め合わせはさせていただくと申しておりました」

 

 凰華にも、この埋め合わせとは決闘を指していると分かった。

 

「うむ、伝えておこう。ところで、そなたの剣技は大したものじゃな。まるで、かの蘭陵王ランリョウオウの生まれ変わりのようじゃ。わらわがもう少し若ければ、心をときめかせておった事じゃろう」

「西王母さまに、古の大将軍にたとえていただけるとは光栄でございます」

 

 西王母は剣技を褒めそやすと見せて、実は龍悟の美形を当てこすったのだが、龍悟はサラリと流してしまった。

 

「西王母さま。青龍派第七世代の弟子、李慶リケイと申します。恐れながら、一つよろしいでしょうか?」

「申してみよ」

 

 龍悟の後ろに控えていた青龍派の弟子が口を開いた。龍悟に慶と呼ばれていた女性である。凰華は試合で闘わなければならない相手の実力を推し量ろうと注視した。

 

「先ほどの白髪の男と白馬について詳しくお聞かせいただけないでしょうか。四大皇下門派の一つである貴派が、妖怪の血を引く者を引き入れるなど合点がいきません」

 

 発する声から氣が充実しているのが分かる。歳の頃は二十歳前後だろうか、背がスラリと高く、肌は雪のように白い。さらにその容貌は西王母に負けず劣らず美しいときたものである。凰華は闘う前から何か負けた気がした。

 

「ふむ、あやつらの事か。あの白髪の小僧の腕はな、我が白虎派に伝わる『白虎手びゃっこしゅ』という技じゃ。門外不出の技ゆえ、そなたらも初めて見た事じゃろう」

「な……」

 

 慶が美しい眉をひそめたが、西王母は構わず話を続ける。

 

「白馬の方は、西域の最奥に棲息する神獣の血を引いておる。よく飼い慣らしておるゆえ、心配はいらぬ」

 

 これ以上、追求しても無駄と悟った龍悟が話を引き取った。

 

「西王母さま、あの白髪のお弟子を試合に出していただけないでしょうか……?」

「無論そのつもりじゃ。そなたと手合わせしとうて、ウズウズしておったぞ?」

「そのお言葉を伺って、安心致しました」

「試合は明日行う。今宵はゆるりと旅の疲れを癒すがよい」

 

 龍悟たちは再び拱手すると、白虎派の弟子に促され、それぞれ部屋を後にする。しかし、龍悟は足を止めると振り返り、

 

「西王母さま、そちらの……お弟子の名を伺ってもよろしいでしょうか……?」

 

 先ほどまでの滑らかな弁舌とは打って変わって、龍悟は口ごもりながら質問した。思わぬ問いに凰華と西王母は顔を見合わせた。

 

「そなたの好きにするがよい」


 凰華は答えるべきか迷ったが、名を尋ねられて答えないというのもなんだか悪い気がして、龍悟に包拳した。

 

「えっと、セキ凰華と申します……」

「石、凰華……」

 

 龍悟は心に刻み込むように凰華の名を復唱すると、包拳礼を返して部屋から出て行った。

 

 残された凰華が首を捻っていると、西王母が意味深な表情で呟いた。

 

「……そなたもなかなかに罪作りな女子おなごじゃな」

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