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【完結】暴虎馮河伝 〜続編あり〜  作者: 知己


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第六章『龍穴(四)』

 翌朝、凰華オウカはドスンドスンという音と振動を感じて目を覚ました。何事かと驚いて眼をこすると、音の正体は拓飛タクヒの震脚だった。

 

「拓飛、どうしたの? 今日は樹海から出るんじゃないの?」

 

 拓飛は声を掛けられると鍛錬の手を止め凰華に向き直った。

 

「おう、起きたか。龍穴に出くわす事なんて滅多にねえからな。何日かここで鍛錬してくぞ」

「どういう事? ここで鍛錬すると良い事があるの?」

「龍穴は大地から氣が吹き出てるって言ったろ。ここで内功の鍛錬をすれば、普通のとこでやるより数倍効率が良いんだ」

 

 内功の鍛錬と聞き、凰華の表情がパアッと輝いた。

 

「じゃあ内功を教えてくれるの⁉︎」

「そうは言ってねえ」

 

 瞬殺された凰華の表情は、あからさまに輝きを失ってしまった。

 

「……人をぬか喜びさせて楽しい……?」

「まあ聞けよ。内功が使えなくたってな、誰でも身体の中に氣を蓄えてるモンなんだぜ」

「えっ? そうなの?」

「氣の源がヘソの下の丹田ってのは知ってるよな? そこにかめがあると想像してみな」

「ヘソの下に瓶……」

 

 凰華は自分のヘソの下をさすりながら呟く。

 

「そうだ。そんで瓶の中には水が入ってる。それが氣だ。最初は少ししか入ってねえ水も、鍛錬をする事で少しずつ溜まってくる」

 

 ここで拓飛は突きを放つ。何気ない突きだが、ボッという風切音から氣が込もっている事が分かる。

 

「ただ、その瓶には普段蓋がされてて、誰もが中の水を使えるわけじゃねえ」

「……その蓋を外す事を、内功を使うって事?」

「そういうこったな」

「なるほど……じゃあ斉天大聖セイテンタイセイは拓飛の攻撃で瓶にヒビが入って、水が漏れ出しちゃったってワケね」

 

 この凰華の言葉に拓飛は少し驚いた。

 

「へえ、なかなか飲み込みが早えじゃねえか」

「うん、なんか拓飛のワリに説明が分かりやすいっていうか……あっ、それ師父の受け売りなんでしょ? そうでしょ!」

 

 拓飛はバツの悪そうな顔をした。

 

「うっせえ! いいから黙って套路でもしてろ。丹田に力を集中させる感じでな。そうすりゃ内功が使えなくても、氣の鍛錬になる」

「うん! やってみる!」

 

 二人は離れてそれぞれ氣の鍛錬を始めると、しばらくして凰華が驚きの声を上げた。

 

「あっ! ねえ、拓飛! なんかおヘソの下が熱くなって来た気がする!」

「そりゃ氣が蓄えられてる証拠だ。そのまま続けてな」

 

 その時、斉天小聖セイテンショウセイがキーキーと鳴いて杏や棗の実を持って来た。どうやら朝食のつもりらしい。

 

「おっ、気が利くじゃねえか小聖。飯にしようぜ、凰華」

 

 拓飛が呼びかけるが、凰華は鍛錬に集中して耳に入っていない様子だ。邪魔をする事もないと思った拓飛は、一人でささっと食べ終えると自分も鍛錬に戻る。

 

 二人はそれから食事の時間以外は氣の鍛錬に没頭、疲れたら温泉に浸かり回復して、また鍛錬に戻るという流れで数日間が過ぎていった。



 樹海の中の龍穴で鍛錬を始めて五日目の夜、拓飛と凰華は焚き火を囲んで夕食を取っていた。


「明日の朝、ここを出るぞ」


 先に食べ終えた拓飛が唐突に口を開く。


「えっ、どうして? まだいいじゃない。なんかあたし、ここで鍛錬してると調子が良いような気がするのよ」

「ダメだ」

「だからどうしてよ」


 凰華は珍しく引き下がらない。


「龍穴に溢れる氣は無限じゃねえからだ」

「えっ……」

「一度龍穴の氣が枯れちまうと、再び氣が満ちるまで数十年から数百年ぐれえかかるらしい」


 ここで拓飛は温泉に眼を向けて、


「そうなったら、この温泉にも入れなくなっちまうぜ」

「……そうなんだ。人間の都合で自然を壊しちゃダメね。うん、明日出ていきましょう」


 しばし沈黙の時が流れ、パチパチと木が爆ぜる音だけが周囲に響いていた。


「拓飛ってさ、武術に関してはなんて言うか真面目よね?」


 凰華が沈黙を破った。


「ああ? なんだそりゃ」

「だって拓飛って面倒臭がりだし、遠回りとか嫌いじゃない。でも武術に関しては真面目って言うか、地道な努力を苦にしてないって言うか……」


 拓飛は褒められたのか、けなされたのか分からなかったが、


「そうだな。俺はめんどくせえ事や遠回りは大嫌えだ。楽して強くなれるならいくらでもやるぜ。でもよ、強くなるのに近道はねえんだ。ゆっくりでも遠回りするしかねえ」


 いつになく真剣な顔をする拓飛を見て、凰華は以前から思っていた疑問を口にした。


「拓飛ってさ、どうしてそんなに強くなりたいの?」


 その時、焚き火の炎が風で揺らめき、拓飛の顔に深い影を落とした。拓飛の表情は窺い知れないが、その眼がより一層赤味を帯びたように凰華には見えた。


「……強くなりゃ誰にも舐められねえ。強くなりゃ誰にも奪われねえ」

「それって……」

「……しゃべりすぎたな。もう寝る」


 そう言うと拓飛は背を向けて横になり、すぐに寝息を立て始めた。図らずも拓飛の触れられたくない部分に踏み込んでしまったのかと思うと、凰華は輾転反側を繰り返して寝付けなかった。

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