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【完結】暴虎馮河伝 〜続編あり〜  作者: 知己


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第二十八章『真相(三)』

 龍悟リュウゴが扉を開けると、大広間の中央で壮年の男が剣を振っているのが眼に入った。

 

 正確に言えば男の手はからであったが、凰華オウカの眼にも、男の剣が姿のない対手を次々と斬り伏せていく様が鮮明に視えた。

 

 龍悟は男が外功の修練をしているのを見て、残念に思うと同時に内心喜ばしくもあった。

 

 もしおこなっていたのが内功の修練であれば全身に巡らせた氣を順序に従って収めなければ、心身を損ねてしまう事もあり、その間は隙だらけになってしまう。

 相手を傷つける意図があれば赤子の手をひねるようなものだが、動けない相手に手を下すなど好漢のする事ではない。かえって龍悟は開き直る事ができた。

 

 男は最後の敵を斬り伏せると、おもむろに扉の方へ顔を向けた。

 

 威厳に満ちた口髭を生やし、龍を思わせる鋭い眼光————青龍派の掌門、黄志龍コウシリュウである。

 

「……何用だ」

 

 志龍が声を発すると、まるで突然見えない重りが背中に乗し掛かったように、二人は床にひれ伏した。

 

「弟子、黄龍悟、ただいま任務を終えて戻りましてございます」

「……龍悟、後ろの女は何者だ?」

「は……、これなるは我が青龍派の門を叩きし者。師父に入門の許しをいただきたく参りました」

 

 龍悟の返答に、志龍の眉根が吊り上がった。

 

「————入門の許可だと? そのような些事でワシの修練に水を差したというのか……⁉︎」

 

 志龍の眼が見開き、途轍もない威圧感が二人に向けられた。平伏していなければ吹き飛ばされそうな迫力である。凰華は氣を全身に巡らせて、なんとか持ち堪えた。

 

「いえ、師父。お尋ねしたき儀がございます」

「……申せ」

 

 龍悟は顔を上げて口を開いた。

 

「————師父、『白虎』、『朱雀』の両派に攻め入るとは真にございますか?」

「そうだ」

「いかなる理由で、そのような————」

「朱雀派はワシの要請を断り、あまつさえ凌拓飛リョウタクヒなる妖怪と婚儀を結ぶなどと抜かしおった」

「————白虎派は、何故ですか⁉︎」

 

 凰華が顔を上げて声を発したが、志龍は眼もくれない。

 

「白虎派の者どもを殲滅するに理由など要らぬ」

「なっ…………‼︎」

 

 あまりに理不尽な物言いに呆気に取られ凰華が言い返せずにいると、龍悟がゆっくりと立ち上がった。

 

「誰が立ち上がってよいと申した?」

「……黙れ……!」

「何……?」

 

 龍悟は覚悟を決めたように顔を上げると、指を志龍に突きつけた。

 

「貴様のその増上慢、弟子として————息子として、この僕が正してやる!」

「……小僧が……、増上慢はどちらか思い知らせてやろう……!」

 

 二頭の青龍が同時に剣を握り、向かい合った。

 

「龍悟くん!」

「手を出さないでくれ、父を止めるのは僕の役目だ」

 

 息子の言葉を聞いた志龍は冷笑する。

 

「フン、甘いな。ワシに剣を向けたからには、もはや親子の情など無いものと知れ」

「……分かっているさ————!」

 

 裂帛れっぱくの気合と共に龍悟が打って出た。

 

 龍悟はのっけから、成虎セイコに伝授された『無型をって有型を制す』の妙諦に従い双剣を振るった。

 それは、師父に伝授された技を使っても、剣筋が読まれている事もあるばかりではない。父親に対する決別の意思表示だったのである。

 

 志龍は今まで見た事のない息子の剣筋に意表を突かれたのか、受けに回るばかりで攻めの手が出せない。

 

 凰華は龍悟が優勢と見て取ると眼を輝かせたが、その認識は間違っていたと理解するまでに、そう時間は掛からなかった。

 

 交流試合の時の拓飛のように龍悟は必死に剣を振るうが、志龍は泰然自若として悠々と剣を受けている。それはまるで師父が弟子の上達具合を確かめているかのようだった。

 

「なんだ、その技は? 踏み込みが甘いぞ」

 

 ついに志龍は龍悟の剣を受けながら、技の矯正を始めた。

 

「腰が高い。二寸下げよ」

「…………!」

「逆だ。そこは腕を上げるのだ」

「……うるさいッ!」

「肩が開き過ぎておる。まるでなっておらん」

「————黙れぇッ‼︎」

 

 激昂した龍悟の技が大振りになったところを見逃さず、志龍がゆるりと剣を振るうと、龍悟の胸から鮮血が溢れ出た。

 

「————龍悟くん‼︎」

 

 龍悟は胸を押さえて片膝を突いた。志龍は悠然と歩み寄ると、氷のような眼で見下ろし、

 

「……そのような付け焼き刃がワシに通じると、本気で思っていたのか。間抜けが……!」

「くっ……!」

「弟子の過ちは師父として、正してやらねばならんな……」

 

 ゆっくりと剣を掲げた。

 

「————やめてぇっ‼︎」

 

 振り下ろされた剣が、立ちはだかった凰華の眉間の皮一枚で止まった。

 

「……お前……っ、まさか……!」

「…………⁉︎」

 

 恐る恐る凰華が眼を開けると、志龍の表情が驚きで歪んでいる。

 

「……娘、お前、姓は? 名はなんと言う?」

「……アン……いえ、セキ凰華です」

「石……だと……⁉︎」

 

 その時、凰華の足元に『凰』の髪飾りが落ちた。それを眼にした志龍は天を仰ぎ、

 

「————ハハ……、ハァッハッハッハッハッハ‼︎」

 

 大量の氣が込められた笑声が大広間を揺るがせた。凰華と龍悟は訳が分からず、唖然とするばかりである。

 

 いまだ耳を揺さぶる笑い声が木霊こだまする中、ようやく志龍は顔を下げた。


「クク……なんたることよ。これが運命というものか……‼︎」

「さっきから一体なにを言っているんだ……⁉︎」


 尋常ではない父の様子をいぶかり、龍悟が声を掛けた。


「……龍悟よ。貴様、白虎派の女弟子に懸想けそうしていると報告があったが、まさかこの娘ではあるまいな?」

「…………だったら、どうした……!」

 

 父からの思わぬ質問に表情かおを歪ませて龍悟が答えると、志龍はギリリと歯噛みした。

 

「……愚か者めが……、教えてやろう。この娘は、貴様と血を分けた————『姉』なのだ……!」

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