におい
仮に
真実というものがあるなら
この生活こそ
それだろうとおもう
まいにち
きまった時間に
米を研いでいる
ひとの帰りをまちながら
夕餉のしたくをする
子はソファで穏やかにねむり
いずれにおいに目を覚ます
もしくは
玄関が開く音に
消防車のサイレンに
炊飯器のわめきに
仮に
真実というものがあるなら
それは地下深くのものではなく
ずっと身近な
まるで俗っぽい愛でないと
やがて繰り返す季節みたく
生活の音楽でないと
わたしは
生活のなかに
ひとすじの光明をみている
みその香りは真実然で
営みはつづく
玄関が開く
六時のサイレンがする
不幸なニュースが流れる
コンロの火をとめる