なで猫
短編書いてみました。
猫をなでるのが好きだ。
鼻先に指を持っていくと、すんすん匂いを嗅いできた。
私の指先に顔を強くこすりつけてくる。
「かわいすぎる。……お兄ちゃんとは大違いだよ!」
言葉がきつくなってしまう。
でもこの兄が悪いのだ。
「悪かったって……。もうお前の教室に顔出さないようにするから」
……それはそれで寂しい。
それでも、理由は私にもわからないが、兄が自分の教室に来たってだけで、恥ずかしさで顔が赤くなってしまうのだ。
「でも、俺がお前の弁当届けなかったら、お前は昼ご飯、どうする気だったんだよ?」
……そりゃあ、何とかしたよ。
実際にはどうにもできずに困り果てていたが、それをごまかすために猫の頭をなでる。
「ほら、玉子焼きやるから機嫌直せ」
そんなので、私の怒りが収まるわけがないだろう。それに、そのお弁当を作ったのは私だ。
ぷりぷりしながらなで続けても、猫は逃げる様子がなかったので、自分が履いているスカートをぽんぽんと叩いた。
乗って来てくれるかな?
猫は自分の膝の匂いを嗅いだあと、残念ながら興味が無くなったみたいで私から離れてしまった。
逃げちゃうかな? 人には慣れてるっぽいけど、野良猫みたいだし。そう考えてたらあろうことか、猫は兄の方へ歩き出してしまった。
「おっ、こっち来る」
兄が伸ばした手を、猫は前足を器用に使い引き寄せた。そのままガジガジと噛みつく。猫は兄の膝をふみふみしながら指を堪能したあと、膝の上で寝転んでしまった。
猫がごろごろしてるのを見ているだけで、私の怒りも消え去りそうだ。
兄が猫のお腹をなでまくるのを、私は見ることしかできない。手を出せば、今度こそ逃げてしまうかもしれない。
猫は膝の上で身体をにょーんと伸ばしてされるがままになっていた。
「ここで寝られると、困るんだけどな。昼ご飯が食べづらい」
それは贅沢な悩みだ。
思う存分、もふもふできるんだから、変わってほしい。
「おい、なんつー眼で見てるんだ。……そんなんだから猫も逃げるんだよ」
そんなこと言われても、猫とこんな距離でふれ合うなんてそうそうない。この警戒心も無くだらけきった姿を、眼に焼き付けておかなければ。
「……お前の頭もなでてやるから! そんで、いいかげん怒るのはやめろ」
視線が猫を向いていたので、気持ちの準備もなく、兄に頭をぐりぐりとなでられた。
――――!?
「………………おい、いつまでなでればいいんだよ!?」
そっちからやってきたんだ、私の気が済むまでに決まっているだろう。
……もう、とっくに怒ってはいなかったけど。
気持ちの書き方とかむずかしい。