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お前、俺のために女になってくれ

作者: ななぽよん

「お前、俺のために女になってくれ」

「なんでだよ!?」


 私は高速でツッコミを入れた。


 ここは夕暮れ時の客が入り始めた古びた宿酒場。

 机の向かいの目の前のこいつは冗談ではなく、本気な顔をしている。


 私達は冒険者だ。

 この幼馴染のマッチョ男とコンビを組んでいる。

 仕事が終わって街に戻り、酒場に入って一杯目の酒を呑んで、こいつはそんな戯言を言い出した。


「だってよ、他の冒険者の奴が雌犬をこれ見よがしに見せつけて来るんだぜ!?」

「はいはいわかった。娼館いけ」


 私はしっしとあしらう。

 女が欲しければ女に言え。男の私に言うな。


「違うそうじゃないんだ。性欲ではない、俺は顕示欲を満たしたいんだ」

「自分でわかってるじゃないか。なら男の私では力にはなれん」

「いやお前ならなれる!」

「なんでだよ!?」


 私はゴツンと木製のジョッキを机に叩きつけた。

 ミードが溢れこぼれた。


「まずお前は小さい」

「悪かったな」


 私の身体は普通より小さい。

 身体の小ささは、狭い場所の探索を行うのに便利だ。


「そして長い金髪が美しい」

「やめろよ」


 私は下ろすと肩甲骨辺りまである髪を一つに束ねている。


「それにかわいい」

「気持ち悪いわ!」


 こいつにそんな事言われても寒気しかしない。

 なんだよ今までそんな目で見てたのか……恐ろしいぞ。


「ゆえにお前は女になれる」

「なれないよ!」


 ははん、さてはこいつ馬鹿だな?

 いや元々馬鹿なのはわかっていたが、ついに狂ったな?


「落ち着け、冷静に考えてみてほしい」

「いや、君がそれ言うのか」


 冷静に考える? 何を?

 私が女になって? こいつの恋人の振りをする?

 気持ち悪いわ!


「心まで女になれと言っているわけではない」

「なってたまるか」

「身体だけ女になってくれればいい」

「なってたまるか!」


 やはりこいつは狂っている。

 酔っているとかそういう問題ではない。

 女装くらいの話しかと思ったら、軽く飛び越えてきやがった。


「実はもう買ってあるんだ……女になれる魔法薬」

「絶対騙されてるぞそれ」


 金額は聞かない。我慢できずに殴りたくなるだろうから。


「そう思うなら飲んでみろよ」

「嫌だよ! 試すなら自分でやれよ!」

「こんなムキムキの女は嫌だろ」


 確かに……。いやムキムキの女好きを悪く言うわけではないけど。

 顔もごついし。


「ほら、騙されたと思ってさ」

「いや本当に騙されてる流れだからなこれ!」


 女になる魔法薬なんて得体の知れないものを飲ますのは、騙す気しかないだろう。


「実はもう酒に薬を混ぜてある」

「いや本当に騙されてる流れだ、なにこれ!」


 なるほどやはり狂ってたか。

 そろそろ一発くらい殴ってもいいよな?


「効果がないと思ってるのならいいだろう」

「君は効果があると思って飲ませたんだろ!?」

「そうだが?」

「そうだがじゃないよ!」


 射るぞこのやろう。


「じゃあ賭けるか? 俺は薬が効かないに一か月分の酒代を賭けよう」

「ずるくないかそれ!」


 どちらにしても私が損するだけの賭けだそれ。


「心配している事はわかっている、いざという時は安心してくれ」

「うん」

「女物のドレスはすでに買ってある」

「用意いいなおい!」


 宿の部屋に戻ったら、本当にドレスがあった。

 私は真っ先にあそこを確認して、部屋に備え付けられた銅鏡で自分の姿を見た。


「ほらやっぱり効かないじゃないか!」


 と言いつつ、少し安心する私がいる。


「いや、しかしどことなく色っぽくなっている」

「なってないよ!」


 夜になって熱が出た。旅の疲れが出たのかも知れない。

 こいつの看病を受けるのは今となっては少し気持ち悪いが、身体が動かないのでは仕方ない。

 甘んじて受ける事にする。


 しかし熱が出たのは、あの時の魔法薬のせいと翌朝気づいた。

 私の大事なものが無くなっていたのだ。


「────!?」


 しかもどことなくいつもより声が高くなっている気がする。

 喉仏がつるんとして、胸と尻に少し脂肪が付いた気がする。

 

「まさか……いやそんなっ!?」


 幸いな事にこいつはまだ起きていない。

 これは、この事態は隠さねばならない。

 しかしこいつが起きた途端にバレてしまった。


「もしかして……女になったのか?」

「な!? なぜわかった!」

「雌の匂いがする」

「酷いなおい! 獣か!」


 隠していたとしてもいずれバレていただろう、仕方ない。


「では賭けの通り、女服を着てもらおうか」

「そういう話だっけ!?」


なんだか騙されてる気がする。


「着替えを手伝おう」

「ああ。っておい!」


 やっぱり変態か! もう騙されんぞ!


「何を戸惑う事がある。いつも目の前で着替えてたじゃないか」

「そりゃそうだが……」

「男同士で意識しすぎだぞ? それとも心も女になったのか?」

「いやそんなことはない」


 言われてみれば意識しすぎたのかもしれない。

 身体が女になっただけで、他は何も変わらないはずだ。


「熱で汗をかいているだろう。まずは身体を拭いた方がいいな」

「ああ。背中を頼む」


 私は背を向けベッドに座り、するりと寝巻きを脱いだ。

 桶のぬるくなった水で濡らした布で、背中を拭かれた。

 大したことではないはずだが、妙に気恥ずかしい。


「なんだか照れるな」

「こっちの方が恥ずかしいんだからな!」

「いやそうではなく、昔を思い出すなと思ってな」

「ん?」


 私たちは孤児院の中でも悪ガキ二人組だった。

 よく全身を泥だらけにして、お互いに身体を拭きあったものだ。


「懐かしいな……お前の身体は昔と変わらない」

「いや変わってるよ! 女にされたんだぞ!」

「昔のままで小さくてかわいいぞ」

「やっぱ気持ち悪いなお前! もうやめろ!」


 布を持つ手をパシンを叩いた。

 私はその際、身体をこいつの方へ向けてしまった。

 ハッと気付き、慌てて両手で胸を隠した。


「なんだよ以前と変わらないじゃないか」

「そう見えるだけで変わってるんだよ!」


 自分の身体だからわかる。少し先がぷっくりしているし、しこりがある。


「そうか? 俺の方がまだ胸があるぞ」

「なぜ脱ぐ」


 こいつはシャツを脱ぎ、胸筋を見せつけてきた。


「お互い裸なら恥ずかしくあるまい」

「もうわからないよ君の考えは!」


 はぁとため息をつく。また熱が出そうだ。


「よし、手をどかすんだ。前も拭くぞ」

「いいよ!? 自分でできるよ!」

「しかし病み上がりだろう。さっさと拭いて着替えた方がいいぞ」

「くっ……うん……」


 腹立つ事にこいつの言うことは正論だ。

 手に力が入らず、濡らした布を固く絞る事ができないだろう。


「ほら、手を上げろ」

「わかったよ……」


 私は観念して両手を上げた。

 少し膨らんだ胸を見られ、顔が紅潮する。

 腋と腰を拭かれていく。


「んっ……」

「どうした? 女みたいな声を出して」

「くすぐったかっただけだよ!」


 どことなく触り方がいやらしいと感じる。

 おそらく気のせいだろう。気のせいでありたい。

 そして正面に対峙して、胸を拭かれていく。

 私はじっと拭かれる自分の胸を見る。


「まつ毛長いな」

「は!? なんだよ急に!」


 顔を上げると、目が合った。

 私は慌てて両手で顔を隠した。

 顔が熱い。自分でも真っ赤になっているのがわかる。


「顔真っ赤になってるぞ。大丈夫か?」

「バカ! 君のせいだぞ!」

「すまない。急がないと熱がぶり返しているようだな」

「ちがっ、いやそうだ。急げよ!」


 胸をささっと拭かれ、そして手が下半身に触れた。

 私は慌てて、手を掴む。


「なんだ?」

「ソコは自分でやるよ!」

「そうか? 遠慮しなくていいのだが」

「君が遠慮しろよ!」


 布をひったくりコシコシと拭く。

 やはり今まであった部分に無いことに違和感を感じる。

 拭き終わり、私は布を返した。

 するとこいつはくんくんと布の匂いをかいだ。


「うわー! やめろよ! 何してるんだバカ! 変態!」

「ふむ、やはり雌臭いな」

「ほんと最低だな!」

「ああ。これでは嗅覚の鋭いモンスターに気づかれてしまいそうだ」

「……くぅ!」


 モンスターの中には女の匂いに敏感な奴もいる。

 そんな事を今、気にしているだなんて、バカはバカでもこいつは冒険者バカだった。

 それより私の事を気にしろよ。


 白の肌着シュミーズを渡され、私はそれをささっと着た。

 上等な生地なようで、するっと私の肌を撫でた。


「よし、服を着せるぞ。ドレスって上から着るのか? 下からなのか?」

「知らない。どっちでもいいから早くして」


 私は全裸に脱がされて立たされ、再び両手を上げさせられ、上からすぽっと淡い桃色のドレスを被せられた。

 そして背中の編み上げの紐をぐっと締められた。


「どうだ?」

「どうだと言われても……」


 なんかひらひらする。動きづらい。


「次はコルセットだ」

「そんなのもあるのか……」


 コルセットを腰に当てられ、再び背中の編み上げの紐をぎゅうと締められた。


「待て! 苦しい!」

「む? 苦しいくらい締め付けると聞いたが」

「きつすぎる! 手加減しろ!」


 ほどほどのきつさでコルセットを付けられた。

 そしてレース編みの手袋を渡され、それを嵌めた。

 ここまでくるとなぜか私も楽しくなってきた。


「首元が少し寂しいな……」

「そういうだろうと思って首輪も買ってある」

「違うだろ! ネックレスとかショールとかあるだろ! なんで首輪なんだよ!」


 手にしていたのは革の首輪だ。

 こいつやはり私をそういう目で見てたのか!


「自慢してきた奴がこういう首輪させていたのだ」

「……それ奴隷だったのでは」

「そうか奴隷か。では俺の奴隷になってくれ」

「嫌だよ! やっぱり君はバカだな!」


 首輪を取り上げようとしたが、じっと手にした首輪を見ている。


「首の防御には良さそうだから俺が付けるか」

「それはそれでおかしいだろ!」


 カチャカチャと自分の首に首輪を当て始めた。


「首が太すぎて入らん」

「無駄になってしまったね」


 悲しい目で首輪をじっと見ている。


「わかった、わかったから私が付けるよもう」

「そうか、似合うと思うぞ」

「全く嬉しくない褒め言葉だな!」


 私はくいと顔を持ち上げた。

 首に当てられて冷やりとした首輪の革の感触に、私の眉がピクリと動いた。

 首輪の金具がカチリと嵌められ、その音に腰がゾクリと動く。

 私はそっと首輪に手を当てた。


「まさか紐とかないよな?」

「む? 必要だったか?」

「いやいい……いらないからな!」


 そう言いつつも、なぜか少し残念な気分になった。

 いやおかしいな、私も熱でおかしくなっているようだ。

 そしてこいつは袋をあさっている。次は何が出てくるんだ。

 ジャラリと音を立てて、袋から何か取り出した。


「鎖ならある」

「余計酷いな!?」


 チェインメイルの鎖を縦に繋げたような鎖だった。

 私は抵抗を諦めて、鎖のリードを取り付けられるのを待った。

 カチャカチャと取り付けられる音を聞いて、私の胸がドキドキと高鳴る。

 手が離れ、一歩下がると、胸元で鎖が揺れ、カシャリと鳴った。

 鎖の長さはそれほど長くはなく、私の股間の辺りで取っ手の輪の部分が揺れた。


「やはり似合っているぞ。捕縛されたモンスターみたいだ」

「酷い感想だな!」

「褒めたつもりなのだが」

「一切褒め言葉になってないからなそれ!」


 冒険者脳のこいつの感性がわからない。


「もう身につけるものはない?」

「髪飾りがあるぞ。その前に髪を梳かさないとな」

「ボサボサのままだったっけ」


 私は自分の髪を手ぐしでわしゃわしゃとかいた。

 私の髪は肩甲骨ほどまである。いつもはそれを一つに束ねていた。

 そういえば、綺麗な金髪で売れるだろうから髪を伸ばすべきと言われて伸ばしてきたが、もしかして……。


「まさか、女装させるために髪を伸ばさせていたわけではないよね?」

「そんなつもりはないぞ。純粋に美しい毛並みだと思っている」

「毛並みって……」


 動物ではないぞ私は。

 しかし母親譲りの髪を褒められるのは嬉しい。


 私は後ろを向いた。そしていつも通り、私の髪が櫛とブラシで梳かされていく。

 冒険でどうせぐしゃぐしゃになるから無駄じゃないかと思っていたけど、そうか。

 動物の毛をブラッシングする感覚だったのかこいつは。

 髪をさらさらに整えられた後、リボンで頭の上に二つに束ねられ、ツーサイドアップになった。

 そこに、花飾りの付いた髪留めが付けられた。


「ちょっと子供っぽすぎないか?」

「編み込みなどできないから可愛くしてみたのだが」


 首輪と相まって、自分でも少し犯罪的に感じる。


「さて、もう満足したか? 脱いでいいか?」

「何を言っている。これから街へ買い出しに行かないとだろう」

「え? この格好で?」


 私はドレスの裾を持ち上げた。

 リードの鎖が揺れ、カシャリと音を立てた。


「出かけるための服だろう?」

「ええ……女装して外を歩くのか……」

「もうすでに女なんだ。何もおかしくはない」

「まずこの状況がすでにおかしいことだらけなんだけど」


 魔法薬で身体を女にされて、女性服におめかしされてデートさせるとは、どういう嗜好なんだ。

 しかも子供のような髪型で首輪にリードをしている。間違いなく奇異な目で見られるだろう。

 想像しただけで恥ずかしさで顔を覆いたくなる。


「大丈夫だ。お前はかわいい。そして俺の恋人になれるはずだ」

「くそぅ……どんどん話をおかしい方向に持っていくね君は」


 恋人とかどこから出てきた話だ。


「おかしいも何も、最初からそういう話ではなかったか」

「そうだっけ」


 そう言われてみれば、自慢するために恋人役になれみたいな話だったっけ。

 

「仕方ないな、ここまで来たなら付き合ってやろう」

「これで正式に俺たちは恋人になったわけだな」

「恋人役な」


 誰が男同士で本当に恋人になってたまるか。


「では出かけようか。靴はこれだ」

「靴まであるのか……」


 いつも履いている冒険者用の無骨なものではなく、気品のある靴だ。


「そういえば靴下を履くのを忘れていた……」

「ここにあるぞ、履かせよう」

「いいよ自分でやるよ」


 膝上まである靴下を受け取り履こうとしたが、コルセットで身体が曲げられず苦戦する。

 私は諦めて靴下を返した。

 私はベッドに座り、裾をめくって足を差し出した。

 すると靴下を履かせる前に足を撫でられた。


「すべすべだな」

「もういちいち気持ち悪いな」

「剃ってるのか?」

「私は元々体毛が薄いんだよ」


 父系の先祖が東の寒い方で、私の毛の薄さはそちらからきているようだ。


「股間もつるつるだよな」

「バカ! めくろうとするな変態!」


 蹴り飛ばすぞ。


「もしや魔法薬の影響で身体が子供になったのではないかと思ってな」

「小さいのは元からだよ悪かったな!」

「なるほど元から子供だったか」

「失礼だなもう!」


 私は靴下を履かせる事を急かした。

 するりと膝上まで靴下を履かせられ、ふとももを撫でられた。

 もう何も言うまいと黙っていたら、執拗に撫で続けられた。

 少し気持ちよく感じてきた自分に気づいて、慌てて手を押さえた。


「いい加減にしないか」

「ああすまん。この細い足と筋肉でよく冒険ができるなと考えていた」

「君の足が筋肉で太すぎるだけだよ」


 とは言っても自分の足が細いのは確かだ。

 最後に私の膝にリボンがまかれ、靴を履かされた。

 これで女となった私の完成である。

 私は立ち上がり、くるりと周った。


「どうかしら? おかしくはありませんか?」

「お前の口調がおかしい」

「なんだよ! 付き合って女性を演じてやってるのに!」

「そうだったかすまない」


 今更ながらこいつとコンビを組んでいるのが嫌になってきた。

 事が終わったら別れようか……。


 さて、私達は街へ出た。

 食料品や油などの消耗品の買い出し。

 冒険者の仕事の前準備だ。

 装備の点検補修はまだ終わっていないので、まだしばらくは街でのんびりしていることになる。

 それまでこいつと恋人ごっこすることになるのだろう。


 街の人の視線を、いつも以上に意識してしまう。

 男の私がドレスを着て首輪を付けてて変ではないだろうか。いや間違いなく首輪は変だとは思うけど。

 意識するとまた変に胸がドキドキと鼓動が大きくなってしまう。

 恥ずかしさで腰の当たりがもじもじとしてしまう。私は自然と内股歩きになっていた。

 慣れないドレスと靴でよろめくので、私はこいつの腕を取った。

 恥ずかしいが仕方ない。今はこいつの恋人ごっこに付き合ってやろう。

 街では見知った顔の冒険者と何組かとすれ違った。

 話しかけることはなく、遠目でこちらを眺めていた。

 私はにこっと微笑んだ。


「どうです? 女連れの光景を見せられて満足しました?」

「ああ感謝している。これからも頼む」

「これからもと言われましても、もう女性の格好はしませんよ」


 女装して男とデートなんで御免こうむる。二度としてたまるか。


「では男装するのか?」

「いや男装て。前と同じ格好するだけだし」

「それだと男装ではないのか?」

「え?」


 私はここに来て不安を感じた。


「この女体化の魔法薬の効果っていつまで続くんだ?」

「永続効果だ」

「やっぱりバカだな君は!?」


 私はこいつの胸ぐらを掴もうとしたが、背丈が合わないので服を掴んだ。


「いたずらみたいな感じで飲ませる薬じゃないだろそれ! 一生女のままなのか!?」

「安心してくれ」

「何が!?」

「今後は薬の効果がますます出てくると聞いた」

「ますます男から遠ざかっていくじゃん!」


 私達の言い合いで、何事かとざわざわと遠巻きで見られている。

 私はかーっと顔を赤くして、慌てて宿酒場へ戻った。

 他の冒険者の視線を感じる中、私は酒を頼んだ。

 まだ陽は高いが飲まずにいられるか。


「元々女みたいだったのだからいいじゃないか」

「くっ……ついに本音が出たな」


 やはりそういう目で見てやがったんだな!?


「勘違いしないでほしい。俺は男が好きなわけではない」

「私は男だからな!」

「お前の身体が好きなんだ」

「やっぱり最低だな!?」


 一瞬ドキッとした私がバカだった。

 私はこいつの顔をひっぱたいた。

 そして立ち上がり逃げようとしたが、首輪のリードの鎖を掴まれ、くいと顎を持ち上げられた。

 真っ直ぐに視線が合った。

 私の顔が紅潮していくのを感じる。 


「身体だけじゃない、顔も髪も好きだ」

「────!?」

「だから……いいよな?」


 私は顔を背けた。

 しかし覚悟を決めて、静かにゆっくりと頷いた。

 そして再び顔を合わせ、目を閉じた。

 じっと初めてのその時を待つ。


「そうだ。俺たちはこれからも冒険者コンビだ!」

「はぁ!?」


 私は背中をバンバンと叩かれた。


「乾杯!」


 木のジョッキを持たされ、ゴツンとぶつけられた。

 私は酒を飲み干すこいつをあ然として見つめた。


「君は……私の事が好き……なのか?」

「ああ好きだぜ相棒!」


 こいつはにかっと笑った。

 バカに振り回された本当のバカは私だった。私はうつむいた。

 熱のせいか酒のせいか、身体が熱い。股がじっとりと濡れてしまっている。

 はぁと大きくため息を一つついた。


「あっこの前俺に見せつけてきた奴だ」


 そうだ本来の目的を忘れるところだった。

 私はこいつの小さい目的のために協力しているのだった。

 恋人ごっこのために、私は腕を絡ませた。


「どうした? 急に」

「ほら、そいつに私達の関係を見せつけてやるんだろ」

「そうかそうだったな。おおい!」


 私は手を振って呼んだ先を見た。

 そこには雌犬を連れた男がいた。


「ゥワン!」

「こら! 静かに! よぉこないだぶり!」

「ハッハッハッハッ」

「どうだかわいいだろううちの恋人は! こらっ舐めるな! ははっ」


 立ち上がりしっぽをぶんぶんと振っている。

 雌犬だ。間違いなく雌犬のようだ。


「見てくれ! うちの相棒もかわいいぞ! 首輪も付けたんだ!」


 私はリードをくいと引っ張られた。

 そうかそういう目で見てやがったんだな……。

 犬を連れた冒険者はぎょっとした表情で私を見た。私はそれににっこりと微笑み返すしかなかった。


「ワン!」

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― 新着の感想 ―
[一言] なんかとんでもない相棒……。 主人公は苦労しますね。
[良い点] 雌『犬』になる薬じゃなかった。 良かった良かった。 [気になる点] 寝るときに抱っこされてそう。 [一言] 。。。腹を撫でさせている、だと。。。?
[一言] すごく面白かったです!
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