ハプニング?
「はっ!」
上体を跳ね起こすように目覚めた。
……ふぅ。
寝起き特有の、徐々に意識がはっきりしてくる感覚を味わう。
「よく眠れたな」
だいぶ疲れが取れたと思う。
けど自分の心のどこかで焦りがあるような。
大事な何かを忘れているような。
「うーん」
昨日は確か……?
ああ、そういえばクエストをこなそうと思ってたんだっけ。
きっと、寝ることなんかしないで必死にクエストをこなしてる人もいるんだろうな。
そう思うとちょっと焦る。
やるからには、あれだよ。なんというか、トップ目指したいじゃん?
そして今の自分がパンツ一枚だということに気づく。
「そういや昨日風呂入ってないんだった」
簡単にシャワーだけ浴びて済ます。
すっきりした。
熱いお湯が気持ちよかった。
ベットに腰掛けて端末を触る。
「LIMEニュース?」
どうやらこの通話アプリでは通話、チャットの二つだけではなく、簡易的なニュースも見ることができるみたいだ。
開いて見る。
LIMEニュース☆
01:20〈⚠︎掲示板使用上の注意〉
20:00〈森林地帯の実装!!〉
18:00〈神殿内にショップが実装されました!〉
・
・
・
「おおー」
これは便利な機能だ。
情報が簡単に手に入るのはありがたい。
それにしてもこういった公式の文字がテンション高いのはなんでだろうか。
まあ特に困ることはないからいいが。
フレンドの欄に〈オスマン〉の名前が載っているのをみて、少し嬉しくなる。
彼とは少し話しただけだが、なんとなく気があうような感じがした。
俺のフレンド第一号である。
端末の待受に表示されている時計を見て、今が夜の2時過ぎであることがわかった。
真夜中じゃん!
「よし、とりあえず森にいってみるか!」
睡眠をとったことで疲れが取れたので、ただいまの俺はやる気に満ち溢れている。
端末の情報を操作して、2つのクエストを受けることにした。
1つはワールドクエスト。
〈箱庭を探索しよう!〉を選んだ。
その下に100分の0という文字が見えるが、説明によると無理に優先して頑張る必要はないみたいだ。
あくまでメインクエストのサブってことかな。
「もうひとつはどうしょっかなー」
わくわくしながら画面をスクロールする。
「まあこれでいっか」
コモンクエスト〈兎を10匹倒す!〉
自分の主目的はあくまで新しく実装された森林地帯の探索なわけだし。
これにしよう。
身支度をする。
夜の森は危険ってよく言うけど、まあ少しくらいなら大丈夫だよね。たぶん。
服に腕を通しながらそんなことを考える。
なんかあったらすぐ逃げればいいよね!
装備を整えて、最後に端末を腰に巻いてる鞄の中に入れ家を出る。
外に出てから扉の鍵を閉めると辺りは暗くなっていて、月の光と街灯くらいしか闇を照らすものが無いことに気づく。
「あ、なんかめっちゃ不安になってきた」
正直に言おう。怖い。
「そういえば、もうみんなも家を手に入れたんだな」
自分の家の隣にも、別の人の家が建っている。
周りを見ると広場とは反対方向のかなり遠くまで家が建っている。
「やっぱり大通り沿いは人気だったんだな」
ここにしてよかった。
お隣さんはどんな人だろうか。
優しい人がいいな。笑
奥の草原へと向かう。
目的地は草原のさらに向こうにある森林地帯だ。
同じ大きさ、同じ高さの白い家が通り沿いにずらっと整列している。
その通りを俺は歩く。
深夜だけあって人は自分以外の誰もいない。
なんか幻想的な光景だと思った。
草原についた。
てっきり誰もいないものだと思っていたが。
月光だけか頼りになる暗闇の中、剣を片手に持って、兎を追い回している人がいた。
ちなみにまったく距離が縮まってない。
気になってつい声をかけた。
「何してるんですか?」
「見ればわかるでしょ!!」
即答だった。
荒い息を漏らしながら彼女は走っている。
大変そうだなー(棒)
……ふむ。無視で行こう。
兎と追いかけっこしてる彼女を横目に、俺は森林地帯へと足を早めた。
そこに声がかかる。
「ちょっと、あんた!!なんで!無視を!するわけ!?」
彼女は兎を追いかけてたままのスピードでこっちに向かって走ってくる。
暗くて顔も見えない。
とりあえず息を整えましょうか?
なんて言ってるか聞き取りづらい。
「……さっきまで君と一緒に追いかけっこしてた。あの兎はもういいの?」
彼女の背後に佇んだまま、こちらを見つめてくる兎を右手で指差す。
「良くないわよ!!」
「うおっ」
大声で返答が返ってきた。
少し落ちついてもらう。
「んで、何してたの?」
「…………てたの」
「…なんて?」
「だから、兎を狩ってたの!」
「今までずっと?」
「うん……誰かに手伝ってもらうのは申し訳ないかなって。まあなんとかなるよねって思ってたら、結局1匹も倒せなくて……でも、もう限界だわ……て、手伝ってちょうだい?」
彼女はいかにも一緒にやってくれるよね?みたいな態度でこちらを見てくる。
生憎暗くて彼女の顔は見えないが。
でもあれだろ?
彼女はだいたい8時間くらいずっと追いかけっこしてたことになる。
んでもう限界だと。
きっと彼女は勝気な性格なのだろう。それで、今まで誰かに手伝って、と言えなかった。
これはあれだな。うん。
少し魔が差して、彼女をからかいたくなってきた。
寝起きも相まって、今の俺はテンションがすんごく高い!
もはやなんでもできる気がする。
というわけで少しイタズラしてみようかな。
まずは焦らしてみる。
「えー、どうしょっかなー。俺さー、この後やらなきゃいけないことがあって、あんまり暇じゃないんだよねー」
なんてちょっと大げさに言ってみる。
俺は別に急いでなんかない。
彼女の方を見る。
すると彼女は膝を地面についたまんま、下に俯いて震えていた。
そして、ふと顔を上げて焦点の定まらない目をしている、と思ったら、そこから声をこらえるようにして泣き始めてしまった。
まじかよ。そこまでする気は無かった。
「お、おい。だいじょうぶか?」
「……ぐすっ………うっうう……」
うえーーん!!
彼女は泣いたままこちらに飛び込んでくる。
あたふたしてたのもあって、俺はそのまま抱きつかれる形となった。
グリグリと彼女の顔が俺の服に押し付けられる。
自身の腹部に暖かみを感じる。
これはあかんやつだ。
彼女は相当追い詰められてたみたいだ。
彼女の背中に手を回して軽くさすってやる。
「とりあえず落ち着け」
彼女が泣き止むまでだいたい3分くらいだったか。
「もう大丈夫か?」
「………」
まだみたいだ。
軽く揺すって見ても抵抗がない。
もう少し待てってか。
だんだんと震えが収まっていく。
「んっ………」
「……」
「ん……」
「…zzz……」
寝とるやんけ!!!
「おい!ちょっと!起きろ!」
俺の腹部に顔を埋めている彼女を割と強めに揺する。
でも起きない。
その後も何度か繰り返したが、今までずっと走り回っていたからか、彼女が起きる気配がまったくしなかった。
「はあ……」
しょうがない。起こすのは諦めよう。
「でもどうすりゃいいんだ……」
彼女を仰向けにひっくり返してみる。
ちょうど、雲の隙間から覗く月の光が彼女の顔をうっすらと照らした。
「む。」
こう見ると意外と可愛い。
閉ざしたまつげは長く、土ぼこりで汚れている頬は少し上気している。
薄い黄金色の髪をツインテールにしている彼女は、綺麗に揃えられていただろう前髪がかなりぐちゃぐちゃに乱されていて、割とまずい状態だった。
さっきまで強気に振舞ってた人のようにはまったく見えない。
ほっぺたをつまんでみる。
確かな弾力。もちもちしてる。
こんな女子を草原の真っ只中に放っておくことはできないだろう。
「はあ……」
今朝起きてから二度目のため息だった。
俺は探索を中止し、彼女肩に担いでから再び家に戻るのだった。
ふーん!
描写が少ない!とか、稚拙な表現が多すぎる!とか多分思われる方がいると思いますが、それは文章を読み易くするがための工夫なのです(震え)