新エリアの探索!
「ん……?」
スマホで設定したアラームの音が聞こえる。
いま何時だろう。
ちょっとゴロゴロしながら端末を見る。
23時40分。
しばし眺めてから。
「…はっ!」
スイッチが入ったかのように意識が覚醒する。
そうだった。今日は新エリア実装の日だ!
上体を跳ね起こしてベットから出る。
とりあえずご飯を食べて服を着る。
「みんなはどうするのかな」
気になったので掲示板を見ようと思った。
LIMEを起動する。
いつもの緑色の画面を経て、メイン画面に移動する。
「なんだこれ」
自分に着信履歴が6件もかかっていた。
名前を見るとエリスとかいてある。
「まじかよ」
昨日の夜7時から9時に渡って、時間を開けて掛けてきたようだ。
だが俺は7時前には寝ていた。
着信に気づいてすらいないぜ!
まあたぶん「アップデートきてるね!」みたいな内容だろうし気にする必要もないだろう。
掲示板を見るとやはり賑わっていた。
特に攻略組の掲示板では森の奥の新しいエリアまで行くための、パーティーの勧誘がたくさん行われていた。
「まあそっちは俺にはキツイからな」
鞄を腰に回してつけ、剣をベルトに挿し入れる。
いざ出発。
案の定たくさんの人が広場に集まっていた。
周りが暗い中たくさんのプレイヤーが広場に集まっている。
そのくせ静かであるので不気味に感じた。
俺の今回の目的はひとまず東の草原のアップデート後の下見だ。
どんなモンスターが新たに実装されただろうか。
新しくモンスターが登場することでもちろんドロップアイテムも増えるだろう。
それを有効に活用するためのプレイヤー職業の実装ではないかと掲示板では話されていた。
草原に入る。
相変わらずに一面に広がる雑草たちが、風が吹くたびにサワサワとした音を立てている。
「今夜は明るいな」
満月だからであろうか。
空にはまん丸の月が白く輝いている。
だいぶ明るいおかげで、まだ広場にいる他のプレイヤーたちを遠目で視認することができる。
ステータスを確認しておく。
《ステータス》
レベル/6
ネーム/ミナト
職業/開拓者
スキル/共通言語lv1、鑑定lv3、身体強化lv3、剣術lv3、暗視lv2、火属性魔法lv2、
「おお!」
前に見た時よりスキルが成長している。
このステータスなら大抵のモンスターを倒せるだろう。
レベルに関してはまあ普通といったところか。
高レベルになるにつれてより多くの経験値がレベルアップに必要になるが、オスマンたち攻略組はレベルが10前後もあるのだから恐ろしい。
少し進む。
兎がいた。
いつも狩っている兎がよりもふた周りほど大きくなっている。
「これが上位個体ってやつか」
俺の膝下くらいまでの大きさだ。
兎の口には牙が向きでているのが見える。
噛みつかれたら痛いだろうな。
そいつは俺をみるとその場から駆け出してこっちに向かってくる。
心なしか少しスピードが早い。
だが俺は落ち着いて突っ込んでくる兎を躱しその胴体を斬りつける。
肉を斬る確かな感触はあったがそれでも大きい兎は動くのをやめない。
3発目を兎の首に叩きつけると、ようやくそいつは倒れた。
「結構手強くなってるな…」
疲れてこそいないものの、なかなか倒れない兎に少しびっくりした。
倒すのはそこまで難しくないと分かったので次の獲物を探す。
だが運の悪いことに同じ兎しか見つからない。
その度に兎を倒す。
ちょうど4匹目の兎を倒し終わったところだった。
「割と疲れてきたな」
ふぅ、と1つ息を吐いて次の獲物を探す。
ふと気が抜けた瞬間だった。
俺は後ろを振り向いた。
すると、そこには草原の少し盛り上がった場所に立つ、1人の少女がいた。
彼女は鮮やかな赤い瞳を鋭く光らせて、こちらを探るような視線を投げかけてくる。
その少女は美しかった。
月が照らす彼女の短めの髪は、光った絹糸みたいに美しく真っ黒であって、風に乗ってサラサラと流れている。
ワンピースのようにひらひらと纏っている黄色い半透明のレースの内側には、彼女の肩と形の良い胸、そして引き締まった鼠蹊部を部分的に覆っている漆黒の皮鎧、そして健康的で白く透き通っている腹部と太ももとがちらりとのぞいている。
とても煽情的な格好である。
だか彼女の頭の上には、長くてしなやかな黒い兎の耳が2つぴょこんと立っていた。
そして、その少女はその身長と同じくらいの細い流線型の持ち手の長い剣みたいなものを右手に持っている。
何かのコスプレだろうか。
そんなプレイヤーがいるなんて今まで聞いたことがないが。
もしかしたら何かのイベントのNPCかも知れない。
ともかく俺は好奇心から近くに寄ってみようとした。
そして突然のことだった。
俺が足を前に踏み出したら彼女はその場で音もなくかがんだ。
ん?と疑問に思った次の瞬間に、彼女は地面と平行に大きく跳躍した。
その勢いのまま、剣の鋭い切っ先を向けて地面を滑るかのように此方に一直線に突っ込んでくる。
回避するのは明らかに間に合わない速さであった。
50メートルほどの距離を彼女はこの一瞬で詰めてきた。
俺はとっさに剣を抜こうとする。
だが時間が圧倒的に足りない!
腰の左に挿している剣を右手で引き抜いている途中でそなまま彼女と接触した。
「ッ!!」
ガッキィィーーン!!!
金属同士の鋭い衝突音が鳴った。
俺は運のいいことに引き抜きかけている剣の腹で彼女の槍の突進を受けることに成功する。
が、突進の力積もかくや、彼女の槍を突き出すがままに後ろに吹き飛ばされた。
10メートルほどは飛んだだろう。
着地もままならずそのままもみくちゃに後ろへと転がっていく。
「うぐ…」
視界がチカチカと明滅していた。
頭がぐわんぐわんとなっている。
全身を鈍い痛みが襲っているが、喜ばしいことに彼女の槍は俺の体を貫けた訳ではないようだ。
おそらく出血はないだろう。
だか今の俺の状態は隙ばかり、正に殺してくださいとでも言っているかのようだ。
全身が軋むのを堪えて立ち上がろうとする。
が出来ない。
「くっ…」
手が草を掴む感触、足に力を入れる感触はまだはっきりと残っているというのに。
と、そこに初めて聞く声がかかる。
「おい人間!!大丈夫か!?」
んー…誰だろうか。
凛と澄んだはっきりした声が聞こえる。
それにしても目が開かない。
意識もだんだんまどろみに包まれていっている。
「あーダメだこれ……」
だんだんと意識が自らの制御から離れていく。
そこで、俺の意識は闇に包まれた。
もうちょい!




