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角の少女とふたつの竜  作者: 樹(いつき)
第一章 狩人の森
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04.将来の話

「ホルン、もういいぞ」


声の方へ歩いて行くと、見事に獲物を仕留めたライオネルが、嬉しそうに手招きをしている。


「どう? 出来た?」

「ああ、上出来だ。よくやった。見ろ、頭を一発だ」


立派な二本の角を持つ、シルワと呼ばれる草食獣は、目から目へと一本の矢が突き刺さり、暴れることなく絶命したようだ。


「なんで目を狙うの?」


ホルンは当たり前に浮かんだ疑問を、彼に投げかけた。


「そりゃお前、目はどんな硬い体を持つ動物でも必ず柔らかいところだからな。決まれば致命傷になる。足や胴だと、逃げられることもあるぞ」


ライオネルは難なく矢を引き抜いた。

眼窩から流れ出る鮮血を見て、ホルンは少しだけおぞましい気持ちになった。


肉を得るために生き物を殺すことは理解出来ていたつもりだったが、実際にみると、あまり良い気持ちはしない。


「つらいか?」


ライオネルはホルンを見てそう言った。

自分が思うよりひどい表情をしているのだろう、と察しはつく。


「少しだけ……」

「いつも処理してから持って帰るからな。なに、じきに慣れる」


ライオネルは慣れた手つきで獲物をあっという間に解体した。

死体が肉へと変わるまで、そう時間はかからなかった。


「さて、帰るか」

「え? もう?」

「今日は獲物に会えるのが早かったからな。いつもなら半日はうろついてるさ。ホルンのおかげかもな」


ライオネルは荷物をまとめて、立ち上がった。


「狩りは終わったが、仕事は終わりじゃないぞ。干し肉にしなきゃ、売りにいけない。その作業が待ってる。作り方は知ってるか?」

「ええと、ゆでて、塩漬けにして、干しておく……?」


「よく知ってるな。マリア、お母さんに教えてもらったのか?」

「ううん、お父さんがやってるの、見てたから」


実際にやったことはないが、その行程を見たことがある。

ホルンは見たことさえあれば、すぐにそれを覚えられるくらいに頭が良かったのだ。


ライオネルは驚いて言った。


「見てるだけで覚えるなんて、すごいな。これほど賢い子を、農作業と狩りしかさせずに腐らせていくのは、もったいない」

「それは言い過ぎ。私はね、お父さんとお母さんがいれば、それだけで充分幸せなの。そのためなら、狩りも覚えるし、干し肉の作り方も覚える。だから、そんなこと言わないで」


理由の分からない不安さが、ホルンの心を襲っていた。

ここを出て、他で暮らすなんてこと、考えたこともない。


「でもな、自分のことも考えてほしいんだよ。お前はまだ、何だって出来る。何にだってなれる。今すぐ決めろとは言っていない。そのうち、考えてみたらいい。考えて、考えた結果、狩りをして暮らすのなら、それでいい」

「……わかったよ。考えてみる。でも、期待しないでね」


ライオネルは、この話をするために狩りに連れ出したのだろう。

ホルンも約束したものの、やりたいことなんて、分からない。


ここで長く暮らしていて分かった。

自分には欲というものがほとんどない。

ここでずっと、楽しく暮らしていけるなら、それだけで幸せだった。

しかし、どうもそれだけで終わることが罪であるかのように言われる。


ホルンも、ここが幸せの上限でないことは分かっている。

しかし、上を望めば際限がないことも同時に分かっていた。

幸せに上限がないのなら、今以上を望まなくてもいいのに、とすら思っているほどだ。

無欲であることが良いこととは言えないが、ホルンはそっちの方が楽だと思っていた。


「やりたいこと、見つけられるかな」


ライオネルに聞こえないように、ホルンは小さく呟いた。

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