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角の少女とふたつの竜  作者: 樹(いつき)
第一章 狩人の森
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02.森の中の家

少女が次に目を覚ました時、最初に見たものは、こげ茶色の天井だった。

作られて何十年も経っているのか、変色しているものの、劣化している様子はない。

手入れが行き届いているのだろう。

力強くしっかりと屋根を支える木の柱を、少女はしばらくじっと眺めていた。


寝かされていたのは、個室だった。

部屋の中に、他に人はいない。

いくら小娘とはいえ、なんと無防備なのだろう。


周囲を見回すと、中身の入っていない本棚やチェスト、机が、窓から射し込む日の光に、寂しく照らされている。

ベッドから起き上がろうとすると、体が激しく痛んだ。

まるで、生まれて初めて全力を使ったかのような感覚で、腕ひとつ動かすのにも、うめき声をあげなければならなかった。


「いったぁ……」


小さくもらしても、誰の反応もない。

どうにかベッドから降りてみようと、気合と根性で動かない体を動かし、足を床へつける。


「うわっ」


二本の足だけで体を支えようとしたところで、膝からがくんと崩れ落ち、床へ倒れ込んでしまった。

その大きな物音を聞きつけたのか、個室の扉が開く。

そこに立っていたのは、助けてくれた屈強な男ではなく、温和で柔らかい雰囲気の女性であった。


「大丈夫!?」


女性が慌てて、少女の体を抱き起した。


「すみません……」


なんだか情けなくなり、ついそう口走る。


「喋れるのね、良かった。野盗に追われてたみたいだけど、怪我はしていないようだったから、目が覚めるのを待っていたの。どこから来たの? 名前は?」


(――――名前、名前? 私の名前、何だっけ?)


「……思い出せません。私、名前も、どこから来たのかも、全然覚えていないんです。気がついたら森に居て……」

「そうなの……。私も医者じゃないから詳しくないけど、記憶喪失ってやつなのかしら? それに、あなたの頭、角が生えているわよ」


少女は慌てて頭に手をのばした。

両側頭部から小さな角が一本ずつ、ちょこん、と生えている。

すぐに目の前の女性と見比べるが、彼女の頭には生えていない。


「私も角の生えた人は見たことがないし、ライオネルもそう言ってた。本当なら医者に連れて行きたいけど、それでややこしいことになったら、あなたも嫌でしょう?」

「それは、そうですけど……」


だったらどうしたらいいのか、分からない。


「あなたが嫌じゃなかったら、だけど、うちで暮らす? 私たちは森で狩りをして暮らしているの。だから他の人と会うこともほとんどないし、角が生えてることだって、私たちは全然気にしないわ」


少女は迷った。

この優しそうな女性を疑うつもりはないのだけれど、判断するには少しばかり早計であることは間違いない。

それに、状況が何ひとつ分かっていないのだ。

最初に会った男達に突然襲われたこともあり、そう簡単に人を信用することが出来なかった。


「あの、その前に聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」


どうぞ、と女性は快諾した。

聞きたいことを頭でまとめ、口を開いた時、言葉を遮るようにして、お腹が鳴った。

その音で流れは完全に遮られ、少女は開いた口を閉じ、俯いた。

顔から火が出るほど恥ずかしかった。


「とりあえず、ご飯にしましょうか。お話はそれからだって出来るわ」


女性は微笑んでそう言った。

居間にある暖炉では、薪がぱちぱちと燃えて、暖かな火を作り出している。

その上で鉄鍋が吊るされており、中には山の幸で作ったスープが煮立っていた。


点灯ライトオン


女性がそう呟くと、天井からつるされたランタンに自動で火が灯った。

少女は驚いて、彼女に聞いた。


「今、どうやったんですか?」

「魔法よ。知らない? ……ああ、でも、魔法って言っても魔力の必要なものじゃなくて、私たちの声に反応して、点いたり消えたりする道具、って感じかしら。どこの家庭にでもある物よ。そうだ、やってみる?」


女性が消灯ライトオフと呟くと、灯りは消えた。

少女も女性がやったように、ランタンを見つめて、点灯ライトオンと口に出した。

しかし、何も起こらない。


「え、あれ? もう一度やってみて」

「ライト、オン。ライトオン。らいとおん。ライトーン」


言い方を変えて、何度も繰り返した。

しかし、ランタンは何も反応しない。


「壊れちゃったのかしら? 点灯ライトオン! つくわね……。ごめんね」


なぜ反応しないのかは分からない。

多少いじけながら、もういいよ、と思った。


「あの、ランタンは一度置いておいて、名前を聞いてもいいですか?」


ランタンを分解しようとしていた彼女に、私は聞いた。

まだ彼女の名前も聞いていなかったのだ。


「ああ、ごめんなさい。私はマリア。マリア・パストゥール。あなたを助けた厳ついおじさんが、ライオネル。私の夫よ。今はちょっと出かけてるから、ここにはいないけど、教えておくわね」


頭に浮かんだ屈強な男の顔と、ライオネルという名前が一致した。


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